四柱推命は古代中国でうぶ声を上げ、日本へ伝わってきたものであるため、漢字文化圏である中国、韓国、そして日本という限定された地域で発展したローカルな面が強い運命学である。つまり陰陽五行論は、自然と人との関わりを記述する方法であるが、大変限られた自然環境の中でしか論じられてこなかったことになる。
しかし、四柱推命における四季という概念は、日照時間の長短をもとにして考えられているので、世界中どこであっても通用するはずである。ただし、南半球の場合、中国、日本とは四季の巡りが反対になるため、その点は考慮しなければならないことになる。
季節の変化は、地球の公転運動に依存する変化なので、四柱八字の年月の支を沖となる支に変換すればよいであろうと推測される。つまり、日本で寅年寅月の場合は、南半球では申年申月となるということである。節入の時刻は太陽の黄経によって定義されているので、南北半球共通であり、当然、日時の干支は何も変化はなく共通であることになる。
しかし、四柱推命を海外で生まれた人に適用しようとすると重大な問題が存在することに気がつく。それは日付変更線である。現在の日付変更線は、世界標準時の基準点であるイギリスのグリニッジ天文台からできるだけ遠くになるように、1884年に人為的に定められたもので、干支暦とは何も関わりがない。グローバルな形で四柱推命を活用するには、干支暦独自の日付変更線を定める必要があることになる。
この問題には不明な点が多くあるが、一応仮説のようなものを考えることはできる。それは人類の起源にまで時代を遡って考えることになる。
現在、遺伝子の研究により人類の起源は、アフリカのナイル川の上流に生活していた人類にあることが明らかになっている。地球上のすべての人類は、すべてその狭い範囲からスタートして、世界中に移り住んだのである。
ここで思考実験をしてみることにする。この思考実験は、16世紀の大航海時代に、西回りに世界を一周すると日付が1日消えてしまうという、船乗りが陥ったパラドックスをもとにしている。
現在、四柱推命が人の命運を論じる方法として妥当性があるということは、干支暦に妥当性があるということになる。そして、干支暦を時間の流れと逆に遡っても、その妥当性には何の影響も与えないということがこの話の前提となる。千年、一万年、そして何十万年と暦を遡ろうが、地球は現在とほとんど同じ状態で太陽の周りを回っていたはずだから、遡る年数の長短は関係ないはずである。そこで、アダムとイブとも言えるカップルが生活していた時代まで干支暦を遡ってみることにする。
さてここから話が始まる。アダムとイブとも言えるカップルから多くの子孫が生まれ、部族の人数が多くなり、ナイル川の上流から、食糧や獲物を求めて、ある者は東に、またある者は西に移動して行った。徒歩かせいぜい動物の背にまたがっての移動である。そして彼らに毎日欠かさず日数を数えてもらうことにする。この思考実験を成就するには、数十万年、数百万年の間、1日も欠かすことなく数えてもらう必要がある。
数百万年後、東回りに移動した人類と、西回りに移動した人類が出会った時、お互いの日付を確認すると、東回りの人類は西回りより1日先行しているのである。
この出会った場所が、生物としての人間の日付変更線とすべき地点と考えられるのである。
西に向かった人類と東に向かった人類の移動速度が仮に同じであるとすれば、日付変更線はナイル川上流の正反対のあたりということになる。そこで世界地図を眺めてみると、ナイル川は東経30度付近を流れているので、干支暦の日付変更線は西経150度付近のアラスカとカナダの境界線あたりということになる。
今まで、ブラジルとかアメリカで生まれた方の命を30人ほど見たことがあるが、現在の日付変更線を元にして四柱八字を出しても問題がなかったのは、干支暦の日付変更線と現行太陽暦の日付変更線に大きな差がないからではないかと思われる。
しかし、これはあくまで仮説でしかないので、多くの研究の余地を残していることを最後に付け加えておく。最近の人のDNAの研究によると、縄文人と古代インカの人々、またアメリカインディアンのDNAが大変似通っているそうであるから、干支暦の日付変更線は地図上に直線で境界線を引くことはできない性質のものかも知れない。
もう一つ解決すべき問題がある、それは旅客機などで高速で移動した場合である。スペースシャトルとか人工衛星に乗れば、90分ほどで地球を1周してしまうが、そうしたものに乗る機会は当分の間ないとしても、航空機で外国に旅行した際、干支暦はどのように考えたらよいのかが問題なのである。アメリカで数年暮らし、出産のため日本に里帰りした母親から、帰国後10日ほどのちに生まれたお子さんを知っているが、日本の干支暦で四柱八字を出しても何も問題がないことは確認している。
アーサー・T・ウインフリー著の「生物時計」(東京化学同人刊)によると、人の体内時計は、1日に2時間以上時間がずれると調整できないため時差ぼけを発生するとある。
また「生体リズムの発現機構」(理工学社刊)という論文集には、時差ボケが治るためには3日から4日かかるとある。現在、体内時計に関するいろいろな研究が世界中でなされ、多くの成果が出ているようである。私は生命科学の専門家ではないので詳しいことはわからないが、経過日数とか経過年数をどのような仕組みで数えているのか、そして、そのカウントが狂ったときにどのような調整がなされるのか興味があるところである。しかしながら、四柱推命と生命科学との関連の問題は、五行とその生剋・幇の作用が人の何に対応しているのかが具体的な形でわからない限り、根本的に解決することはないであろうと思っている。

「四柱推命学入門」小山内彰 (希林館)より
https://meiwajuku.com/nsityu4/
http://www.shihei.com/shihei/calc/