中国は、日本のような地形の変化のはげしい国とちがって、茫洋とした大平原や、海と見まごうばかりのだだっ広い大河の国です。旅をするにも、行けども行けども目印一つないような荒野や幾日幾夜をついやして上り下りする大河と生活をともにしてきて、中国の人びとのあいだに、私たち日本人からみれば、信じられないような独特な方位感覚が育ったとしても、なんのふしぎもありません。その感覚が、天に方位の道しるべとなるような星があるように、地にも、地上を支配して方位を定める星があるという考えになってあらわれてきたのだとも言えるでしょう。

たとえば、中国四大奇書の一つと言われる『水滸伝』の冒頭には、洪大尉が道教の大本山である竜虎山、伏魔殿のなかにとじこめられていた三十六の天ゴウ星、七十二の地サツ星を解放する話が出てきます。この百八の星は、百八の魔神であると解釈できるのですが、この魔神は地に降て百八人の英雄豪傑に変わり、のちに梁山泊の山サイにたてこもって武勇をふるうことになります。

古代の中国に、地の星—-という概念があったことは、この物語からもおわかりでしょう。

「地の星」つまり、「方位の星」が存在しているとすれば、それはとうぜん、東、西、南、北、北東、東南、南西、西北の八方に分布しているはずです。それに自分が現在立っている中央を加えて合わせて九つ—-むずかしい理屈をぬきにすれば、中国の「九星」の概念がこうして誕生したものであることは、まずまちがいがありません。

 

 

◎出典 「改定方位学入門」高木彬光著 カッパブックス及びブログ作者の収集データーによる◎