◎ 私の生涯の言葉となった、バスケットボール選手のひと言 ◎
ずいぶん前の話になるが、テレビの英会話番組をボンヤリと見ていたときだった。
アナウンサーがアメリカのバスケットボールの選手にインタビューしている。見るからにバスケットボールの選手らしい体つきと、私はスポーツマンですよ、と言っているような爽やかな受け答えだった。大きな身体なのにボソボソと話すその仕草もとても好感が持て、話の内容も比較的単純であっさりしていて、私の英語力でも十分に会話を楽しむことができた。
インタビューの半ばにアナウンサーがこんな質問をした。
「あなたがバスケットボールをする理由はなんですか?」
質問は月並みだったが、この答えは私が生涯、忘れることができない言葉であった。
「それはバスケットボールに対するdedication (デデイケーション)です」
アナウンサーはこの答えに満足しなかった。アナウンサーが聞いたのは「なぜ、職業としてバスケットボール選んだのか?」という意味に近く、アメリカのバスケットボールのNBAに憧れたとか、小さい頃からバスケットボールが好きだったとか、そしてあるいはNBAに入ってお金を得て両親に贅沢をさせたいとか、そういった類の答えを期待していたのだろう。
それから見ると「バスケットボールヘの献身です」というのは違う。献身(dedication)は「理由」にはならない。いったん、NBAに入り、ある程度年齢が経てば、欲得もなくなって献身したくなるのはわかるが、最初からバスケットボールにdedicationするためにNBAに入ったというのも本当か?
私がそう思った瞬間、はたしてアナウンサーは食い下がる。
「お聞きしたいのは、バスケットボールを選んだ理由ですが?」
と踏み込んだ。それでもその選手の答えは変わらなかった。
「バスケットボールヘの献身です」
「献身? dedicationつて何ですか?」
「はい、バスケットボールをすることです」
「はあ……? バスケットボールをすることって?!」
選手は答えた。
「私は、バスケットボールをすること以外は何も考えていません。なぜバスケットボールをするのかも、NBAのことも、契約のことも何も考えていません。ただバスケットボールをやっています……」
選手は椅子の上でその長身の体を二つに折ってアナウンサーに話しかけていた。穏やかに笑っている顔に厳しさは見られなかったが、それでもその姿には気品があふれていた。
アナウンサーは「はあ……l と言ったきりしばらく黙っていた。
「バスケットボールヘのデデイケーションですか‥‥‥それだけ、それだけですか?」
その選手の前で視聴者としての私も、そしてアナウンサーも凍り付いてしまう。その選手の言っていることはなにも驚くことはないことだけれど、私たちが遠い昔に忘れてしまっていたことである。
『武田邦彦の科学的人生論』飯塚書店刊より R080916

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おてんとうさまの下で
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