本書では、当時の四年生以上の修身教科書と同様、教育勅語を冒頭に載せ、巻末にもその意味を掲載しているのでぜひお読み頂きたい。また、それぞれのお話は、学年別ではなく、修身の教科書で繰り返し教えられた「我が國」「公民の務」「祗先と家」「勤勉、 勤努」「自立自螢」という五項目に編集部が分けて掲載した。
子供はよいお話が好きである。古人の立派な道徳的行為、人物伝を必ず好む。そのときに感心してもすぐに忘れてしまうこともあるが、大人になってから、人生のある局面で蘇り、そのような行動を選択することもある。
例えば、「沈勇」というお話がある(本書237頁に収録。)これは、事故で沈みゆく潜水艇の中で、死ぬ間際まで「潜水艇の発達を遅らせてはならない」と沈没の原因などを毅然と書き残した明治の軍人さんのお話だが、これは世界中の海軍関係者を感激させた。
日露戦争時に、いったんは沈めたロシアの軍艦リューリック号の乗務員を助けた上村彦之丞提督のお話(101頁に収録)は、後に、大東亜戦争のジャワ沖海戦で繰り返され、日本の駆逐艦「雷」の工藤俊作艦長が、撃沈されたイギリス艦から四百人以上のイギリス軍人を救った行為のもとになっている。この行動のお蔭もあって、戦後もイギリス海軍には反日感情が薄かったという。
これらは戦争にまつわる物語ではあるが、決して憎しみや争いの話ではない。あくまで立派な方の人物伝であり、徳H のお話である。そして、その話を子供のころに聞き、当時の記憶が蘇ったために、彼らも同様の行動を取ったのではないかと思う。
勝海舟、渡辺畢山、伊能忠敬、吉田松陰……。本書には他にも立派な人たちのお話がたくさん出てくる。そうしたよいお話を今の子供たちが聞く機会はほとんどない。教育勅語に書かれていることを意図的に避けて教えようとすれば当然そうなるし、道徳の授業も「マナーを守りましょう」のような末梢的な話題になってしまう。
戦前に立派な人がいるということになると、反日的左翼の人たちは困るのかもしれないが、現代の日本の子供たちに必要なのは、まさに徳目を明らかにした修身のお話である。特に次世代のリーダーになるような子供たちにはぜひ本書を読んで頂きたいと思う。
「国民の修身」渡部昇一