それはともかくとして、春の寅卯・辰月によってこの蔵干の説を検証してみることにする。
『星平會海全書』にある三春、寅・卯・辰月の蔵干を抜粋して掲載すると次のようになる。
春は木旺なので、甲乙木が旺じ、季節の変わり目に土が旺じる。したがって、この3節月の蔵干には、甲木、乙木と土が含まれるはずである。ところが、右のように、なぜか寅には丙火が、辰には癸水が含まれている。奇妙なことであるが、今まで四柱推命を専門的に学んだことがある方なら、おそらくその理由は察しがつくことと思う。この丙火と癸水は、三合あるいは局と言われる考えを根拠とし、挿入されているのである。
三合・局とは、次の図のように、十二支を円形に並べた時、正三角形の位置関係にある3支のことである。寅中の丙火は、寅・午・戌が火局になるということを根拠とし、辰中の癸水は、申・子・辰が水局になることを根拠として入れられているのである。そのほか、金局、木局があると言われているが、ここでは割愛することにする。
そして問題は、三合・局は、旺相死囚休とはまったく相容れない考え方である生旺墓絶を根拠としている点にある。生旺墓絶(せいおうぼぜつ)とは、1年12カ月を巡る間に、五行は12の段階をたどり、変遷するとし、考案されたものである。そのそれぞれの呼称は、人の一生にたとえられており、次のような12の名称がある。
長生、沐浴、冠帯、建禄、帝旺、衰、病、死、墓、絶、胎、養
「長生」とは、人がこの世に生まれたことであり、「沐浴」とは、湯浴みをすることであり、「冠帯」は成人になったことを意味する。その後、「死」を迎え、また再生して循環するという構成になっている。日本における中国系の占いでは、これを十二運と言ったり、あるいはまったく別の名称に変えて利用しているものを見かけることができる。中には、これだけで人の一生を論じたり、日々の運勢を見る視点として利用している安易なものさえある。
さて、この生旺墓絶のどこが旺相死囚休と相容れないかと言うなら、例えば、旺相死囚休によれば、木は火旺である午月には休令となり、衰え始めた時期ということになるが、生旺墓絶によると、木は午月には「死」であるとされているのである。また、旺相死囚休では、季節の変わり目に土旺が必ず巡るのであるが、生旺墓絶は人の一生にたとえた巡りであるから、土旺のような時期があることはまったく考慮されていないのである。
したがって、もし生旺墓絶と旺相死囚休の両方を同時に採用するなら、五行の四季における変遷は支離滅裂になってしまうので、どちらか一方を採用するしか選択肢がないのである。本書では、生旺墓絶は雑論として排除し、旺相死囚休のみを採用する。
「四柱推命学入門」小山内彰 (希林館)より