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キーワード 退却

遯。亨。小利貞。

(とんはとおる。しょうはていによろし。)

「遯」は遁走、逃れて退くこと。「天山遯の時、通じる。小事なら貞正にして叶う」。天山遯の時は、衰えつつある時の流れに逆らわず、 たとえば、中央から逃れ退いて田舎や地方などに身を隠し、じっと再起のチャンスを待つべき時です。何事も潔く退き、深入りしないことで難を逃れることがで きます。見栄も外聞も気にかけず、逃げるが勝ち、今日あっての明日、執着心を捨て去ることです。

 

 

 

〔大意〕逐(とん)には退避、退却、逃れ退くという意味があり、この卦は「撤退することで吉となる」ものです。撤退は攻撃よりも難しい。とくに調子の良いときに攻撃、攻勢に出ることは誰にでもできる。問題は攻撃か撤退かの岐路に立たされたときに、おびえ逃げるのではなく、整然とした撤退ができるかどうかということなのです。

あなたはいま意欲に燃えて山に登った。だが、目的地には到着していないが少し気になることがある。天候異変の準備が足りないことである。いまのところは快晴でくずれる心配はない。しかも意欲は満々であり、目的の頂上にたどり着くまではがんばりたいと思う。こういうときに撤退することは非常に難しいものです。

だが、この卦は「いまは前進するときではない」といっている。こういうときに引き返す勇気を持つことができるかどうか。「勝ちが見えないとぎは最大損失を避けよ」という考え方がある。撤退か進撃かには大局を見る目がなくてはいけないが、このとき大切なのは、退却には「それまでかけた努力」にこだわってはいけないということです。

これが実はいちばん難しい点である。「せっかくここまで来たのに」「これだけ努力をしたのに」といって、それを無駄にしたくないというこだわりが頭をもたげてくるのです。こういう気分になると撤退は「したくない」という方向に傾斜していく。

これがいちばん危険なところで、そういったこだわりのために壊滅的な打撃をこうむることになるのです。「撤退をよくで含る人間は一流である」といいます。攻撃ばかりで撤退のできない人間は二流でしかない。あなたの潜在意識は決してまちがうことはないのです。理性がこだわっても内心の声に耳を傾けて、いますみやかに撤退をすべきである。それが勝利と成功への早道です。

 

●初6:気分を落ち着け、静かにしていなさい。

遯尾厲。勿用有攸往。

(とんびあやうし。ゆくところあるにもちうるなかれ)

「逃げ遅れてしまい、危うい。進んではならない」。ぐずぐずして尻尾をつかまれ、逃げるチャンスを逸した時です。こうなったら下手に 動かず、止まってじっと時を待ち、身を守ることです。

◎あなたの考え方、進み方に問題点があります。よく反省し、改めましょう。

 

●二6:たゆまず求めなさい。回答は必ず得られます。

執之用黄牛之革。莫之勝説。

(これをとらうるにこうぎゅうのかわをもちう。これをあげてとくなし。)

「黄牛の革で固く縛り付ける。これをとき解くことができない」。逃げそこなってしまった以上、しっかりした意志を持って、面の皮を厚 くして居座ることです。自由があまりきかない今、死んだふりをしてチャンスをうかがう ことも必要でしょう。

◎あなたの考え方、進み方に問題点があります。よく反省し、改めましょう。

 

●三9:あなたが正しいと感じていることをしなさい。

係遯。有疾厲。畜臣妾吉。

(とんをつなぐ。やまいありてあやうし。しんしょうをやしなえばきち。)

「逃げようとして後ろ髪引かれて止まる。病にかかったように不自由で危うい。臣や妾を養うくらいなら吉」。逃げるべき天山遁の時に、 私情に縛られ、未練がましく右往左往している時です。思いきりが肝腎です。

 

●四9:あなたが決めたことはいかなることでも成功の一道程である。

好遯。君子吉。小人否。

(このめどものがる。くんしはきち。しょうじんはひ。)

「好きだけど逃げる。君子は吉。小人は欲のために逃げることができず良くない」。好きな人やものを振りきってでも身を引く時です。 私利私欲に凝り固まっている小人には難しいことかもしれませんが・・・・・・。

 

●五9:あなたの決定を堅持せよ。

嘉遯。貞吉。

(よくのがる。ていきち。)

「喜んで立派に逃げる。貞正にして吉」。引くのに何の支障もなく、花道を飾ることができます。

◎良い時です。

 

●上9:あなたのすることはどんなことでも成功するだろう。

肥遯。无不利。

(ゆたかにのがる。よろしからざるなし。)

「豊かに逃げる。よろしい」。功成り名遂げて悠々と引退し、自由の境地を楽しめます。

◎大変良い時です。

※易学史に残る占例

高島呑象先生は、明治九年にこの卦爻を得て、実業界から引退されたと伝えられています。

 

「マーフィの易い」J.マーフィ(昭和61年、産能大学出版部)及び以下を参照しています。

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