◎ 35歳脳死説——努力は出世のためでなく ◎『武田邦彦の科学的人生論』飯塚書店刊より

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◎ 35歳脳死説努力は出世のためでなく ◎

4月に入社した新人が5月になって少し環境に慣れた頃、精神的に落ち込んだり体調を崩したりすることがある。5月病というやつだが、人生にはこうしたいくつかの落とし穴がある。
たとえば「35歳脳死説」というのがある。
大学を出て就職した直後は、平社員で上司の命令通り動けばよいのだから、楽なものだ。
大学で習ったことなどほとんど役に立たない。常識の範囲で立派に仕事をこなすことができる。ところが、永久に平社員であることはまれで、30歳を少し過ぎた頃に、課長や店長など責任ある立場に立たされる。コンビニエンスストアなら、それまで「ハイ!」と「笑顔」でよかったのに、「何が売れるか?」を的確に判断することが必要になってくる。エ場では生産設備を、研究では学力が、そして営業では人付き合い、見通しなどが求められ
る。
しかし、すでに10年もサボってきたので、急に要求レベルが高くなってもそれに応じることができない。そして、自分の力を見つめてみると「とうてい、求められるレベルに到達できていない」と感じるのである。
人間は生物なので「ダメだ」と思うとその苦痛から逃れられるよう全力を尽くす。それが「脳死」なのである。あれほど活発だった彼、いつも昼になるとみんなでわいわいと食事を楽しんでいた彼、その彼がひっそり音もなく席を立ち、肩をすぽめて歩き、黙ってひとりで昼食をとっているのである。
彼が楽になる方法、それは脳の活動を止めて死んだように生きることなのだ。だから食事をしても不味くなり、友人と会話しながら食べることなどは苦痛でしかなくなる。私はそのような人をよく見てきたが、平均的には35歳くらいでそういったことが起きている。
「35歳脳死」、その後に来る50年の人生は灰色で楽しみはほとんどなくなる。ただ愚痴っぽい老人になっていくのを見て、哀しくなる。もし、やがて来るジャンプ……平社員から課長へ……の時のために準備を怠っていなければ、彼の人生は生き生きと活気に満ちたものになるだろう。
人生にとって出世というのは意味がない。それより人生が充実していること、それこそが自分の人生だ。だから、努力は出世のためではなく、自分の人生のためなのである。

『武田邦彦の科学的人生論』飯塚書店刊より R080927

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おてんとうさまの下で
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