はじめに 『武田邦彦の科学的人生論』飯塚書店刊より

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はじめに

誰もが悩みを持っている。それは人間として当然のように思うけれど、奇妙だ。何かの原因で不幸のどん底に陥ったりしているのであれば悩みもあるだろうが、凍死もしない、飢え死ぬおそれもない。それでいて悩みに悩む。どうしてだろうか?
37偉年前にこの地球上に生命というものが誕生して以来、生物の行動や判断はほぼすべてDNAという遺伝子が担っていた。その遺伝子は親から譲り受けたものだから、親が「アイツは敵だ」とDNAで教えたら、相手がどんなに親切にしてくれても、愛してくれても、自分は相手を憎むしかできない。敵だからだ。
ところが私たち人間はDNAを1000倍も上回る「頭脳情報」というものを持っていて、こちらは後天性だから、親がDNAで教えてくれても、相手が親切にしてくれればうっかり信用してしまう。頭脳はやっかいだ。そして、DNAが「相手は敵」と教えてくれても、もう一度「敵か味方か」を考え込まなければならない。だから大脳が発達している。
人間だけが深い悩みに沈むことがある。つまり、「悩みを持つ」というのは「人間である」という証拠でもあるのだが、それは現代の人間、つまり我々だけのような気もする。動物の種というのは特殊な例を除き、せいぜい数千万年ぐらいで絶滅するので、数千万年後には「人類の次の頭脳動物」が誕生するだろう。その時には、今、私たちを悩ませている欲望、挫折、嫉妬などを適切に処理できる頭脳を持っているだろうが、私たちの人生はせいぜい100年程度なのでそれまで待つことはできない。
でも、よい方法がある。私たちが悩む原因は「頭脳の情報を書き換える」ことができるからなので、それを逆手にとって「悩まない方法」を脳にインプットすれば、数千万年の時を超えて、一気に悩みがない新しい人生の仲間入りができるのだ。
紀元前、人類が「鉄の鍬」を発見して食糧の生産麓を飛躍的に伸ばすことができるようになって以来、宗教家、哲学者などを輩出して、「悩みの解決方法」を探ってきた。しかし人間の悩みは時代ともに、また社会とともに大きく変化するので紀元前に編み出された素晴らしい教えも残念ながらそのままでは現代の私たちの役には立たない。翻訳が必要なのだ。
この本は日本人が大脳の情報を書き換えて、悩みの多い人生を楽しくラクな人生に変えるための―つの方法を伝達するためにまとめられたものである。やがてこの本も時間が経てば古びてくるだろうけれど、現代の日本に生きる人、そしてさまざまな悩みを抱えている人に「科学」という武器を活用して‘―つの回答を示してみたものである。

『武田邦彦の科学的人生論』飯塚書店刊より R080831

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