操縦席に座った小泉防衛相― ファンボローで見えた次期戦闘機の現在地
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操縦席に座った小泉防衛相
― ファンボローで見えた次期戦闘機の現在地
2026年7月22日 三原嘉明
一
操縦席に座った大臣
操縦席に座った大臣
2026年7月20日、英国南部ファンボロー。世界最大規模の航空見本市の会場に、濃灰色の機体が屋外の陽光の下に置かれた。実物大の模型である。まだ一機も飛んでいない戦闘機の、実物大の姿。
小泉進次郎防衛大臣は、その操縦席に乗り込んだ。専用のヘルメットを装着し、将来の操縦環境を体験したと伝えられている。
GCAP――グローバル戦闘航空プログラム。日本、英国、イタリアの三か国が共同で開発する次世代戦闘機である。航空自衛隊のF-2の後継機であり、英伊にとってはユーロファイター・タイフーンの後継機にあたる。就役目標は2035年。
まだ存在しない機体の座席に、現職の防衛大臣が座る。奇妙な光景のようでいて、私はここに、この計画の性格がよく表れていると感じた。
【写真① 次期戦闘機のイメージ(防衛白書)】

日英伊3か国が共同開発する次期戦闘機のイメージ。2035年の就役を目標としている。
出典:防衛省(令和7年版防衛白書)
二
確認されている事実
確認されている事実
事 実 確 認
・2026年7月20日、英国・フランス・ベルギーを歴訪中の小泉進次郎防衛大臣が、ロンドン近郊で開幕したファンボロー航空ショーを視察した。大臣は同ショーで基調講演を行っている。
・会場ではGCAPの実物大モックアップが公開され、大臣は操縦席に乗り込み、専用ヘルメットを装着して将来の操縦環境を体験した。
・展示は、合弁会社「Edgewing(エッジウィング)」が今回初めて独立して構えたブースによるもの。2024年7月の展示はBAEシステムズの屋内展示場であり、今回は屋外での公開となった。
・今回のモックアップは濃灰色に塗られ、主翼・垂直尾翼の周囲が銀色。胴体中央部の両側には白い枠が描かれ、サイド・ウェポンベイを示すものとみられる。キャノピーはF-15やF-22と同様、後方に開く形式である。
・2026年4月1日、GIGO(GCAP政府間機関)がエッジウィングと初契約を締結。契約額は6億8600万ポンド(約1450億円)。
・2026年7月3日、3か国が共同で拠出する18か月契約として、46億ポンド(約9900億円)が発注された。先進コンセプト・評価段階を完了させ、詳細設計・開発へ進めるものとされる。
・英国は防衛投資計画で、2026年度から2029年度までの4年間にGCAPへ86億ポンド(約1兆8500億円)を投じる方針を示している。
・エッジウィングは、日本航空機産業振興(JAIEC)、英BAEシステムズ、伊レオナルドが33.3%ずつ出資して2025年6月に設立された。
・7月21日、大臣はイタリアのクロセット国防大臣と日伊防衛相会談を実施。続いて日英伊カナダ4か国の防衛相会合を開き、GCAPへのカナダのオブザーバー参加を発表した。
・同日現地時間15時20分から約40分間、ストリーティング英国防大臣、クロセット伊国防大臣との日英伊防衛相会合を実施。4月および7月の契約締結を重要なマイルストーンとして歓迎した。
・本展示会に、防衛装備庁が初めて出展した。
※ モックアップの塗装・細部に関する記述は、会場を取材した専門媒体の報道に基づく。契約額・会合の内容は防衛省および英国政府の公表資料による。
三
「実物大模型」の二年間
「実物大模型」の二年間
同じ会場に、同じ実物大模型が、2024年7月にも展示されている。
違いは小さくない。前回はBAEシステムズの屋内展示場に置かれ、機体の外形を示すのみだった。今回は、エッジウィングが初めて独立して構えたブースの前、屋外の陽光の下である。
塗装も入った。濃灰色の機体に、主翼と垂直尾翼の周囲だけが銀色。胴体中央部の両側には白い枠が描かれ、これはサイド・ウェポンベイ――空対空ミサイルを収める兵器庫――を示すものとみられている。キャノピーはF-15やF-22と同じく後方に開く形式で、操縦席も再現された。
二年前は「輪郭」だった。今回は「細部」である。
展示物の精細さが、設計の進み具合とそのまま同じであるとは限らない。しかし、屋外に出し、光を当て、蓋を開けて中まで見せるという判断そのものが、一つの意思表示なのではないか。私はそう読んだ。
【写真② 次期戦闘機のイメージ図(防衛装備庁)】

次期戦闘機のイメージ図。ステルス性、長射程兵器の運用、無人機との連携などが求められる能力として挙げられている。
出典:防衛装備庁
四
三国の、等しい持ち分
三国の、等しい持ち分
GCAPは2022年12月、日英伊三か国の首脳によって発表された。翌2023年12月、三か国の防衛相が政府間機関GIGOの設立条約に署名し、2024年12月の条約発効をもってGIGOが正式に発足している。本部は英国に置かれ、実施機関の初代首席行政官は日本から出た。
産業側の受け皿が、2025年6月に設立されたエッジウィングである。英BAEシステムズ、伊レオナルド、そして三菱重工業などが出資する日本航空機産業振興(JAIEC)が、それぞれ33.3%ずつを持つ。
私が注目するのは、この「等しさ」である。
日本がこれまで経験してきた戦闘機の開発は、その多くが米国との協業だった。技術情報には壁があり、改修の自由度にも制約が残った。今回は三分の一ずつである。対等であるということは、権利が三等分されるだけでなく、責任と失敗の可能性も三等分されるということでもある。容易な道ではないと感じる。
【写真③ 航空自衛隊のF-2戦闘機】

航空自衛隊のF-2戦闘機。2035年ごろから退役を迎える。GCAPはその後継機にあたる。
出典:航空自衛隊
五
金額が語る現在地
金額が語る現在地
今年に入ってからの動きは速い。
4月1日、GIGOがエッジウィングと初めて契約を結んだ。6億8600万ポンド、約1450億円。次の本契約までをつなぐ「橋渡し」の位置づけである。
そして7月3日、46億ポンド、約9900億円。18か月の契約で、先進コンセプト・評価段階を完了させ、詳細設計・開発へ進めるものとされる。背景には、英国が防衛投資計画で4年間に86億ポンド(約1兆8500億円)をGCAPへ投じると示したことがある。
図 一 : 三 国 体 制 と 契 約
日本政府
英国政府
イタリア政府
▼
GIGO GCAP政府間機関
2023年12月 設立条約署名/2024年12月 発足 本部:英国
契約 2026年 4月 6億8600万ポンド(約1450億円)
契約 2026年 7月 46億ポンド(約9900億円)
▼
Edgewing エッジウィング
2025年6月設立 機体の設計・開発を担う主契約企業
▼
JAIEC(日本)
出資 33.3%
出資 33.3%
BAEシステムズ(英)
出資 33.3%
出資 33.3%
レオナルド(伊)
出資 33.3%
出資 33.3%
日本航空機産業振興(JAIEC)は三菱重工業などが出資
図版:筆者作成。契約額・出資比率は防衛省および英国政府の公表資料による。
数字の桁が変わったことに意味がある。構想から設計へ、段が一つ変わったのだと読める。
金額は約束ではない。しかし、金額の変化は、約束の変化を映すのではないかと思う。
六
カナダの参加 ― もう一つの設計
カナダの参加 ― もう一つの設計
7月21日、日英伊にカナダを加えた4か国の防衛相会合が開かれ、カナダがGCAPにオブザーバーとして参加することが発表された。大臣は、インド太平洋と欧州・大西洋をつなぐGCAPの意義をカナダがさらに高めることへの期待を述べている。
ここには、機体そのものとは別の設計が働いていると感じる。
第6世代機の開発費は巨額である。三か国だけで回収するのは容易ではない。量産数が増えれば一機あたりの単価は下がり、開発費の負担も分散する。オブザーバーという枠組みは、保全義務を課したうえで開発情報を共有しつつ、将来の顧客を先に囲い込む仕組みでもあるのではないか。
防衛装備移転をめぐる国内の議論は、なお続いている。その是非を、この記事で論じるつもりはない。ただ、「作る」と「売る」が最初から一体のものとして設計された計画なのだという事実は、押さえておきたいと思う。
七
二〇三五年という締切
二〇三五年という締切
2035年は、目標であると同時に締切である。
航空自衛隊のF-2は、2035年ごろから退役を迎える。GCAPが遅れれば、そこに空白が生まれる。戦闘機の空白は、そのまま航空優勢の空白になりかねない。開発計画の遅れが常に懸念をもって語られるのは、このためだと思う。
図 二 : G C A P の 歩 み
2022年12月
三か国首脳がGCAPを発表
三か国首脳がGCAPを発表
2023年12月
GIGO設立条約に署名
GIGO設立条約に署名
2024年12月
GIGO発足
GIGO発足
2025年 6月
エッジウィング設立
エッジウィング設立
2026年 4月
初契約 6億8600万ポンド
初契約 6億8600万ポンド
2026年 7月 いま
46億ポンド契約/ファンボロー航空ショー
46億ポンド契約/ファンボロー航空ショー
2027年末
契約期間の区切り
契約期間の区切り
2035年
就役目標/F-2退役開始
就役目標/F-2退役開始
図版:筆者作成。年月は防衛省・英国政府の公表資料による。
この図を並べてみて、あらためて感じたことがある。2022年の発表から今日まで、すでに三年半が過ぎた。そして就役までは、まだ九年ある。一機の戦闘機を持つとは、これほどの時間を要することなのだ。
八
防衛装備庁が前に出た日
防衛装備庁が前に出た日
今回のファンボローには、防衛装備庁が初めてブースを構えた。大臣は会見で、多くの日本企業が出展していることを喜び、今後も官民一体で国際装備展示会を通じた情報発信を進めていく考えを述べている。
日本の防衛産業は長らく、内向きの構造にあった。需要のほとんどが国内にあり、国際展示会の場に出る機会も多くはなかった。装備庁が自ら前に出たことは、その構造が変わりつつある一つの表れではないかと思う。
良し悪しの判断は、まだ留保しておきたい。だが、変化そのものは起きている。
九
同じ日、二つの海
同じ日、二つの海
最後に、記しておきたいことがある。
7月21日の臨時記者会見で、大臣は沖ノ鳥島南西の日本のEEZ内で中国海軍艦艇が射撃訓練を実施した件に触れ、この事実を各国と共有したと述べた。そして、共同記者会見の場でイタリアのクロセット国防大臣から力強い呼応があったこと、同じ認識と懸念が示されたことを、同志国連携のあるべき姿として語っている。
関連記事:「岩」と呼ぶ海で、彼らは引き金を引いた ― 沖ノ鳥島EEZ射撃訓練の意味(2026年7月22日)
私は前回、沖ノ鳥島の南西180キロで撃たれた機関銃の弾について書いた。その海と、この操縦席は、同じ一人の大臣の、同じ一日の中でつながっていたことになる。
撃たれた海には、いま船がいる。まだ形のない機体は、2035年に飛ぶ。今日守るものと、十年後に守るもの。防衛とは、この二つを同時に抱え続けることなのだと、改めて感じた。
大臣が座ったあの操縦席には、いつか誰かが座る。その誰かは、いまおそらく十代であろう。私たちがいま決めていることの受け取り手は、まだ制服を着ていない。そのことを思うと、金額の桁も、契約の日付も、少し違って見えてくる。
生かされて今を存在する。
出典:防衛省「日英伊防衛相会合について」(令和8年7月21日)/同「防衛大臣臨時記者会見」(令和8年7月21日)


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契約額および英国の投資計画は英国政府発表、モックアップの細部は会場取材報道による。掲載画像は防衛省・防衛装備庁・航空自衛隊の公表資料から使用。図一・図二は筆者作成。
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#牧正人史 #マシレ予測 #GCAP


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