連 載 ・ 至 誠 の 覚 醒 第 四 十 六 話 輸出車の朝

連 載 ・ 至 誠 の 覚 醒
第 四 十 六 話

輸出車の朝

車体工場から戻ると、自分の持ち場が待っていた。

ロボットは何も言わずに動き続けていた。だが、私の仕事は黙って動くわけにはいかなかった。

朝、電話が鳴った。今日オフラインするフォークリフトの仕様を間違えたという営業部の女性からの電話だった。

車両は計画を見ると、すでにオフラインしているはずである。

現場に走った。

現場につくと、件の車両がすでに完成検査を終え、出荷待ちの場所に置かれていた。後は出荷を待つばかりである。

車体の仕様書と営業からの、本来の要望仕様との差が、マストの長さと、爪だった。

もともとの仕様書には、どこの国の、どの商社の、どの客向けに、どの仕様で作るか。すべてが書かれており、工場は、その紙の通りに作っていた。一つも間違えてはいなかった。そもそも、正しい仕様書なのだから、、、

本社の輸出営業部、中近東担当。そこから流れてきた指示が、最初からずれていた。マストの長さと、その国で使われる荷役の条件が、合わない組み合わせになっていた。現地に着いた時点で、使い物にならない。届いてから分かっても、もう戻せない、というより契約違反で、おそらく現地で不良在庫になるだけである。

誰かが、机の上で一本線を引き違えた。その線が、工場の現場まで流れてきて、白い車体となって一台分組み上がっていた。

責めたところで、仕方がなかった。

船積みの期日は動かない。港での積み込みの枠も動かない。動かないものが三つも四つも並んでいて、動かせるものは、目の前の一台だけだった。

現場の班長と段取りを決めた。生産課の部品担当にあらかじめ聞いていた部品は現場のさいこにあった。爪は、ほかの車両のものを借りて、納期が間に合うように付け替えた。一つずつ決めていった。

ばらすという作業は、組み上げる作業より神経を使う。付けたものを外す。傷をつけずに外す。外した部品をもう一度使えるか、使えないかを判断する。使えないと決まれば、代わりを持ってこなければならない。

船積みの期日が、頭の奥で音を立てていた。

正午を過ぎた頃、正しいマストが装着された。午後に入って、組み換えが終了した。夕方、顧客の要望する正しい仕様に修正された。

検査ラインにもう一度流して、完成検査を受けた。今度も検査は合格した。

一日が終わった。

その車両がどこへ行くかは、仕様書に書いてあった。どこの港に着き、どの国のどの町で荷を運ぶかまで、決まっていた。知らない土地の名前だった。だが、その町で使われる一台の注文車両が、今日、この工場にあった。

仕事とは、そういうものだった。

紙の上の線を、誰かが引き違える。その線の書かれた位置のずれで、また誰かが、黙って手を動かして直していく。間違えた者は、直されたことを知らない。直した者は、間違えた者を知らない。それでも、一台の車は、予定通りに海を渡っていく。

釈然としないものは、あった。

しかし、その釈然としなさを抱えたまま手を動かすのが、自分の仕事の輪郭なのだと、その日に分かった。

◆ ◆ ◆

後に、本社へ移り、電話の向こうで仕様変更を依頼する側に立つ日が来る。あの朝、工場でばらした一台のことを、依頼する側になった自分は忘れずにいようと思った。忘れずにいたつもりだったが、忘れたこともあったかもしれない。人は、立つ場所で見えるものが変わる。それもまた、あの村山の朝に教えられたことだった。

(つづく)
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