第36話 チェリーX-1は、ぶっ飛んだ車だった
チェリーX-1は、ぶっ飛んだ車だった。
塾のアルバイトで貯めた金で買った中古車。金のない若者が乗り回す、そういう評判の車だった。それでも私には、初めて手に入れた自分だけの機械だった。
四月の朝、東八道路はまだ人気が少なかった。浜田山の寮まで、今日だけは颯爽と走りたかった。入社式の朝だった。
後ろから来た車が、すっと追い抜いていった。
トヨタだった。チェリーと同じ系統の、小さな車。
その瞬間、何かに火がついた。日産に入ったのだ。負けるわけにはいかない。理屈ではなかった。足がアクセルを踏んでいた。
エンジンが唸った。あっという間に追い抜いた。バックミラーの中で、トヨタ車は小さな点になり、やがて消えた。
前方で、旗が振られた。
止まれ、ということだった。
朝早くから、ネズミ捕りが仕掛けてあった。
───今日は入社式なんです。
そう言いたかった。言えるわけがなかった。
式の間、ずっとそのことを考えていた。首になるのではないか。採用取り消しになるのではないか。隣に座る同期の顔が、どこか遠くに見えた。
後日、簡易裁判が開かれた。執行猶予のついた判決だった。その書類は、今もどこかの引き出しの奥に眠っているはずだ。
社会人の第一日目は、そういう始まりだった。
(つづく)R080414

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