連載:至誠の覚醒 ―第4話― 【泥濘(ぬかるみ)の数理 ― 2006年、どん底の設計図】

2006年、秋。私は府中から八王子へと向かう自転車の上で、鈍く疼く膝の痛みを感じていた。
営業中の不意な転倒。それは、当時の私の人生そのものを象徴しているようだった。

カバンの中には、師・龍崎先生から授かった「時空解析グラフ」が入っている。そこには非情なまでに、私の運命が「どん底」へと向かう下降曲線が刻まれていた。
「本当に、このまま波に揺られるだけの生活で良いのだろうか」
暗闇の中で、私は微かな光を求めて足掻いていた。

そんな時、恩師である笹田先生の紹介で、一人の男と出会う。宋氏だ。
彼は、八王子のビルのワンフロアを継承し、新会社を立ち上げる話を持ちかけてきた。
資金もない、確たる勝算もない。しかし、宋氏の背後に漂う不透明な空気を感じつつも、私はその「毒杯」を煽るように、代表の座を引き受けてしまう。
商号は「旭光ラボ」。
名目は、地域の子どもたちのための私塾「修道庵」の運営だった。

宋氏から渡されたのは、出所不明の顧客名簿と、重い家賃負担。
「私は騙されているのかもしれない」
その疑念を打ち消すように、私は深夜、一人でパソコンに向かった。八王子の町丁別の世帯数、年齢別人口、競合塾の調査。
家賃21万円、人件費40万円……積み上がる支出に対し、試算上の収支は「月57万円の赤字」。
私は絶望的な数字を前に、それでもキーボードを叩き続けた。私にとっての「至誠」とは、感情に流されることではなく、冷徹な「数理」によって現実を直視することだったからだ。