●身土不二的な暮らしの大切さ
食料は単に生きるためのカロリーを確保する物質というより

も、むしろ人間の体の調子を整え快適な生活をするためにある。
日本で採れる食料が日本人に与える影響と外国で採れる食料が日本人に与える影響とは厳密には異なっている。
例えば、水銀を含む魚は日本近海に多い。これは日本近海で海底火山が多く、その火山から吹き出す水銀が魚の体に微景ながらも蓄積するからである。
水銀は毒だと言われているが、日本人は太古の昔から水銀を含む魚を食べている。しかし、海底に火山が少ない地域では、そこの人間にとって水銀は体に悪いものなのかもしれない。
「身土不二」という言葉があるが、これは自分の足で歩ける3里~4里範囲の地域の食材を食べることがもっとも健康に良いということを表している。
このように、食料とはそこに生きる人たちとの関係で存在するものだから、なおさら食糧自給率が大切なのである。
現在、日本の食糧自給率が非常に低いということは日本人が自国の風土以外のところで採れる食料を食べていることを意味する。それは免疫疾患とか重金属の不足による疾病などが起こりやすい環境にあることを示唆している。
巷の環境問題では非常にわずかな発ガン性などを問題視して大騒ぎするが、外国産の食料を食べ続ける環境はむしろもっと大きな根本的な問題である。人間にとって空気、水、食料は毎日、体に入るものだから環境中の環境だと言える。
まず日本の農業環境を改善することが喫緊の課題である。
日本の農業は耕地面積が小さいので不利などとよく言われるが決してそうではない。日本の気候は四季折々であり、水も豊富である。それらを巧みに活用することによって外国並みの食料生産性を上げることができる。大規模農業でヘリコプターを使って農薬を撒くというような方式は、日本では特に適当でないとされる。

『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』武田邦彦 洋泉社刊 2007年
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