CO2は恵みの物質
唐突ながら、日ごろ食卓に のぼるもののうち、植物の光合成と関係しないものは二つしかあません。何と何でしょう? 続く数行を手で隠し、考えてみてください。

講義や講演で大学生や高校生に(ときたまは中学生にも)そう問いかけると、いろんな答えが返ってきます。あまり考えない子は肉や魚、少し考える子はキノコと答えたりしますが、残念ながらどれも誤り。正解は水と塩です。

穀類・野菜・果物は植物そのものだし、お酒もジュースもスパイス類も素材は植物。肉はふつう草食動物の組織ですが、肉食動物の肉も元をたどれば植物に行き着きます。水中でほんとうの物質生産をするのは植物プランクトンと藻類だけ。そういうものを小魚が食べ、小魚を大魚が食べ‥‥という食物連鎖が成り立つため、魚もイカも貝類も、直接・間接に植物を食べて体の組織をつくるのです。光合成しないキノコが、腐った植物組織(ときには生きた植物)を分解して養分を吸収するのはご存じでしょう。
そんなふうに豊かな生物界は、植物の光合成が生み出しました。植物は太陽光のパワーを使い、CO2から炭素化合物(生命分子)をつくります。
ヒトを含めた動物は、体に必須な物質の全部を自力でつくれないから、植物に寄生して生きるしかない。「寄生虫」の親玉、いちばんだらしない生物が、食物連鎖の頂点に立つヒトにほかなりません。きらびやかな大都市の夜景も、暮らしに欠かせない電車も自動車も飛行機も、ことごとく植物の恵み―――ということに気づいたら、世界を見る目も変わりませんか?

身近な植物はみな、四~五億年前に上陸した緑藻の一種が進化・分化し、二~三億年前に大繁栄した生物の子孫です。当時の大気は、現在の何倍も濃いCO2を含んでいました。

過去5.5憶年CO2濃度推定値
以後ゆっくりと減ってきたため、いまの植物は、酸欠ならぬCO2欠に苦しんでいます。だから
温室栽培では増収のために油を燃やし、あるいはCO2のボンベを開けて、ハウス内部の
CO2濃度を一〇〇〇~一五〇〇ppm(外気の三~四倍)に高めるのです。

大気に増え続けるCO2(図1)

(図1E)
(図1)は、むろん植物の生育を速めてきました。一九七〇年代から続く衛星観測の結果を総合すると地球の緑は、開発が進むごく一部の地域を除き、過去三〇年で一〇%ほど増えています。とりわけサハラ砂漠の南部(サヘル地域)は、緑化が急激に進行中です。温暖化(気候変動)が地球の緑を減らす‥‥というのは、NHKが報じ、本に書いてあっても、とんでもないウソだと思ってください。
植物の増加イコール食糧の増産だから、大気に増えるCO2は、一〇億に近い飢餓人口を少しは減らしてもきたでしょう。けっして環境負荷などではありません 。
うるわしい物質CO2を悪者とみる風潮は、あやしい方々が三四年前につくつて広めたのですが(ウソ8、理科を学んだ人なら納得できるはずのない風潮でした。

『「気候変動・脱炭素」14のウソ』渡辺正著(丸善出版株式会社)