リサイクルにしても循環型社会の評価にしても、LCAの手法を使ってより正確に評価するという考え方もあります。しかし、著者はLCAという方法についてあまり言及しないことにしています。それは、LCAを評価していないのでもなく、またLCAの手法を使っていないわけでもありません。LCAはもともとアメリカのある会社が自分の製品が環境に良いことを宣伝するために考案された方法です。したがって、多少胡散臭い方法ではありますが、誠心誠意、学問的に取り組めば環境問題を解決するための有力な方法になることは間違いありません。二〇世紀の幕開けにライト兄弟が飛行機を発明しました。この発明は二〇世紀に大きな足跡を残すことになり、私たちは今やアメリカやョーロッパ、そしてアジアの各国に気軽に行けるまでになりました。しかし、飛行機も最初からジャンポジェット機があったわけではありません。エンジンも不十分、機体の材料も悪く、たびたび墜落したのです。
LCAは環境と資源が重要になる二一世紀には主要な環境評価の一つの方法になると考えられます。しかし、まだ現在は「墜落する飛行機」の段階なのです。
LCAは大きく分けて二つのやり方がありますが、簡単な方を表現すれば「積算方式」といえるでしょう。あるものが一〇万円であるとします。コストや価格は製造するときの環境負荷に比例しているといえますが、それでもそのときどきの市況によっても左右されます。市況は必ずしも環境とリンクしていませんから、コストで環境負荷を代表させるのは市場価格という不安定なものを尺度にするという点で多少乱暴です。その点ではLCAではあるものが一〇万円でもその原料や製造工程、その他の要因をすべて書き出して、一つ一つの環境負荷を積算していくのですから安心です。
そのような理由からLCAが使われるのです。しかし現在のLCAには大きな欠陥があり、それは、二つに集約されるでしょう。
その一つはLCAを計算するだけのデータが提供されず、それを推定する学問も不十分であるということです。LCAは原理的な式を展開して計算するのではなく、一つ一つを数え上げて積算するいわば腕力でするものですから、腕力を発揮するためのデータが必要とされます。
著者の経験では環境関係のデータを得るのはとても大変です。データを要求するのが大学で、データの提供を依頼する先が地方自治体のように、公共的なものでもデータを提供してもらえることは少ないのです。たとえば、地方自治体でリサイクル・プラスチックから油を採るプラントを導入したところがあります。その自治体に建設費やランニングコスト、製品の組成、そしてそのプラントを導入するときの委員会資料などを請求しても、ほとんどは「たらい回し」か「なしのつぶて」でありました。
紙のリサイクルでも同じことを経験しました。こちらの方は相手が私企業なので企業秘密があります。しかし、紙のリサイクルのようにある程度税金を投入し、教育関係では小学生まで巻き込んでいる状態では、私企業といえどもある程度しっかりしたデータを公開するのが適切と考えられます。しかし、LCAは一つ一つの材料や生産プロセス、そして製品などの人間の活動を取り上げて、その構成を計算できるほどのデータはついに集まらなかったのです。
要素をリストアップし、環境への影響を積み上げていく学問的な方法であることを述べましたが、まだ発展途上にあります。
その理由の一つは、人間が「環境」に注目しだしたのは二〇世紀の後半のことだからです。確かに一九世紀から二〇世紀の初頭にかけてマルサスの人口論にみられるように、地球環境が将来どうなるかについて真剣な研究が行われたのは確かです。その後 、一九三〇年代には国連がグールドらに将来の人口予測を依頼して大規模な検討が行われていますし、インドの独立運動を指揮したガンジーは、「物質の豊かさを追求するという限界のある文明は栄えない」と指摘していました。しかし、地球環境や人類の将来ということが多くの人々の関心を呼び出したのは、レイチェル・ カーソンの『沈黙の春』の出版、一九七〇年代のローマクラブの報告書、イタリア・ セベソの農薬工場爆発事故によるダイオキシンの飛散、そしてロジャース博士のオゾン層破壊の警告などが続いた二〇世紀の後半、特に一九八〇年代以後といえるでしょう。
その後、急激に環境についての学問が発達してきました。しかし、この本でも整理しているように、「リサイクル」や「物質の循環」といった環境の基礎的で重要な一つの課題についてもまだ研究の途上にあることからわかるように、「環境問題は発展途上」なのです。
発展途上であること自体は問題がありませんが、そのような状態のもとでは具体的なことになると、人によって大きく判断が異なるのです。リサイクル関係のことをLCAで計算するときに最初に問題となるのは、主婦の労働をどのように捉えるかです。
『リサイクル汚染列島』(青春出版社)武田邦彦著より
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