毒物の三つの種類、そしてテレビのプラウン管のガラスなどを整理してみたところで、もう一度、リサイクル品に毒物が入るルートを考えてみます。
まず「元素系の毒物 」が入るルートとしては、ブラウン管のようにもともと毒物が含まれている工業製品から混じってくるものがあります。鉛を含むプラウン管を使うこと自体は問題がありません。ブラウン管を口に入れる人はいませんし、ブラウン管をはずして食器に使う人もいないからです。
しかし、使い終わったテレビを「家電リサイクル法」で回収して、分解し、ブラウン管を「ガラスという材料」として回収すると、その先は何に使われるかはわかりません。リサイクルを繰り返しているうちに、かつてブラウン管に使用していたガラスが食器になり、鉛が含まれた食器が登場することは十分に考えられます。
瓶の回収工場に行きますとわかりますが、ビール瓶などの特定のものの場合は別ですが、普通の瓶の回収では大量の瓶が山積みされています。その中に特殊なガラスが入っていたり、瓶ではない工業製品が含まれていることがありますが、それらを四六時中、完璧に見張ることはできません。むしろガラス・リサイクル工場には毒物の入ったガラスが持ち込まれ、それがリサイクル品の中に入ることを覚悟しておくのが適当でしょう。そして、リサイクルしたガラスの成分を厳密に測定して防御する方がよいと思います。ガラスの場合は溶かしたときに分析が可能です。しかし、現実の社会でどうなるか少し不安です。リサイクルが行われていない社会では工業原料は平均的に大きなメーカーで製造されますから、十分な管理がされていますが、リサイクル社会のいいところは使い終わった材料を手軽に少しずつ再使用することにありますから、多くのメーカーが工夫して使うかもしれません。それに小さなところは十分な分析機器を持つわけにもいかないので、その点において不安材料が消えません。
元素系の毒物の混入ルートの第二は、小さな電子機器に使用されているヒ素などの強力な毒物がリサイクルの途中で銅などの大量に使う金属に混入して蓄積することです。これもリサイクル工場を見学された人はわかることですが、リサイクルで純粋なものを回収することは不可能に近いといえます。基本的に混合物です。それももともとは何の製品だったかわからない混合物といってよいと思います。回収された銅の中に少しのヒ素が含まれていてもそれを見分けることは不可能です。リサイクル品が運良く大きなメーカーに引き取られればよいのですが、小さなところが「ヒ素入りリサイクル銅」を使って、善意で「ヒ素入りリサイクル銅の鍋」を作ったりすると危険なことになります。
「どうも最近、肝臓が弱ってきた」と感じても、それが自分が使っているリサイクル鍋から少しずつ出てくるヒ素が原因となっているとは夢にも思いません。医者に訴えても、病院が食器や生活用品の中に毒が入っているかを調べてくれることは期待できません。杉並病の例でもわかるように、ある程度原因が推定できても、「あの人は神経質だから」といわれるのがオチです。
プラスチックの衣装ケースは家庭で多く使われ、セーターなどを収納しています。多くの場合
「虫」がつかないように樟脳(しょうのう)やナフクリンなどを入れます。ある程度使われるとやがて捨てられます。農薬散布器も中に農薬が残ったまま捨てられることもあるでしょう。現在はそのまま焼却などされていますので問題はありませんが、リサイクルをし始めるとリサイクルに回されたプラスチックに樟脳や農薬が混入することは避けられません。そして、リサイクル製品が赤ちゃんの口に入ったりしないという保証もありません。リサイクルはそれほど管理を徹底できるシステムではないのです。
第三のバイキン系の毒物の場合は、食料品関係からリサイクル系に侵入する場合が多いと考えられますが、それだけではありません。たとえば、「リサイクル布団」などがその例です。
布団というものは昔から家の中で寝具として使い、使い方もていねいなので平均寿命は約一〇年ほどであり比較的長く使われる製品の一つです。それでも布団を捨てるときには、中の綿はまだ新品同様のように見えますし、昔は「布団の打ち直し」というのが普通だったので、使い終わった布団はまた使用したい、リサイクルしたい、と心情的に思うのも納得できます。
さて実際に布団をリサイクルしようとして綿を持ち込むと、布団屋さんでは古い綿の一部しか使ってくれません。それは綿がプラスチックと同じ「高分子」という構造を持っているので、使っているうちに綿を作っている高分子が切れて劣化するからです。天然の綿を使っていても合成繊維でもすべて「高分子」という点では同じで、使っていくうちに悪くなっていきます。悪くなった綿は保湿力が落ちますので、布団としては商品価値が下がります。
また、布団のリサイクル の別の問題点としては、運搬や 一時的に倉庫に入れておくという「物流」があります。布団はかさばるのでトラックで運ぶとき一台のトラックに多くの布団を積めないこと、倉庫も大きくなります。リサイクルでは大きな倉庫は無理だからといって野ざらしでは布団が雨に濡れてどうにもなりません。そのようなハンディを超えてリサイクル工場に持っていかなければならないので、経費が多くかかり、どうしてもリサイクル布団の値段は新品のものの二倍以上になってしまうのです。
その上、もっと困ることは、リサイクル布団を損を承知で五〇% 値引きをして販売しても売れ行きがさっぱりだということです。それは「肌着のように自分の肌に直接接触する布団。だれが使ったかわからないものは気持ち悪い」というのがその理由といわれています。
この消費者の判断は、尊重して、じっくり考えなければなりません。布団に使う綿はそれほど丈夫なものではありません。天然の綿や羽毛などの場合には虫や細菌がつきますし、合成繊維の場合でも使えば少しずつ高分子という鎖が切れていきます。
やっかいなのは綿の中に潜む虫、細菌やウィルスなどです。繰り返しリサイクルをするということを前提にしたとき、布団の中にいるこのような毒になる生物だけを殺すことができるか慎重な研究が必要です。
布団をすっかりきれいにするのが難しい理由は「綿」も生物の体からできたものですし、細菌も生物です。特にウィルスなどは生物の中でも頑丈なものです。布団を消毒するときに布団の綿が「鉄」のように頑丈なら徹底的な消毒もできますが、性質が似ているのでバイキン系の毒物だけを殺すのは大変でしょう。
理由の第二は布団が「固体」という点です。最初に書いたように固体の材料はそのままでは毒物が入っているかを見極めることもできませんし、内部に殺菌剤も行き渡りません。紫外線などの光を使って消毒しようとしても布団の中までは光が通らないから困ります。このように固体であるということは天然原料の場合と違って、リサイクルでは非常に障害となります。

かくして、リサイクル布団に毒物がないことを証明することが難しく、「リサイクル布団は気持ちが悪いから」という消費者の直感につながっているのではないかと思います。
布団とは違いますが、生活の中で進めようとしているリサイクルでは、家庭であまった生ゴミを堆肥にすることも慎重でなければなりません。
化合物系の毒物の代表的なものである環境ホルモンやダイオキシン、そして発ガン物質などの毒物は分解しにくいものですが、それに加えてこれらのものは「生物に濃縮しやすい」ものもあります。日本でとれる魚介類、肉、野菜などにダイオキシンがかなり含まれているのは、この「生物濃縮」が原因となっているといわれています。
もちろん、現在、市場で販売されている魚介類などに含まれるダイオキシンは環境甚準などで守られていますので、過度に不安になることはありません。
ところで、ある家庭で食べ残しの食料を、「生ゴミをリサイクルしよう」と思って堆肥にするとします。それも最近のことですから庭に大きな穴を掘って、草木などと一緒に入れて土を掛けておく、という方法ではなく、小さな「堆肥作り装置」で作るとします。できた堆肥はいかにも「自然の香り」がして、それを肥料として庭で野菜を作ると自然食品として環境に優しく、健康に良いような錯覚に陥ります。
しかし、たとえばある家庭で食物から堆肥を作り、それを植木鉢に入れて効率よく野菜を作ったとします。それを繰り返していますと、ダイオキシンは徐々にその家庭の野菜に蓄積します。
食物から堆肥に移ったダイオキシンがどの程度植木鉢の土から野菜に移るかは、植木鉢の大きさ、野菜の種類、その家庭が新しい堆肥をどの程度加えるかによって変わりますが、たとえば、頻繁に植木鉢に堆肥を加え、それが十分に循環されたとすると甚本的には加えられた量だけ野菜に蓄積しますから、数ヵ月後には、堆肥の中のダイオキシンは焼却炉の灰の新ガイドラインを超える可能性もでてきます。
この厚生省の新ガイドラインは焼却炉の灰に適応されるもので、それと同じ濃度のダイオキシンがこちらは食べる野菜に入ることになるのです。ダイオキシンを分解する働きのある特別な堆肥の作り方をすればよいのですが、化合物系の毒物の種類は多いので、特定の毒物を分解するものは開発されてくるでしょうが甚本的には生物濃縮されやすいものは堆肥の中に蓄積し、それが家族の口に入ることになるでしょう。生ゴミは臭くてバイキンが多いという意味でも汚いものですが、毒物を含むという点でも注意を要します。
思わぬところに危険があるという例をもう一つ挙げます。
リサイクルに「カスケード・リサイクル」という方法があります。この方法は「材料は使ったら劣化する」という材料工学の原理があるので、一度使った材料をリサイクルしても同じ用途には使えません。そこで、より下位の材料としてリサイクルするという方法です。「カスケード」というのは「小さい滝の群」という意味で、次々と小さい滝となって流れていく滝をイメージしています。家電製品は日本の材料の用途としては主流の一つですが、そこに使われる材料には厳しい品質が求められます。そのために家電製品をリサイクルしても再び家電製品には使えません。そこで家電製品に使った材料はより下位の製品である雑貨などに使用されます。
その「下位の製品」というのが「公圏の杭」などであれば問題はないのですが、家庭用の「風呂のフタ」にも使用されることもあるでしょう。
リサイクルした材料に毒物がしみ込んでいるとします。しみ込むルートは様々で、研究室で毒物貯蔵に使っていた冷蔵庫の材料であることもありますし、テレビの電子機器の部分で使っているヒ素や鉛がプラスチックに混入することもあります。またテレビが一部熱で焦げてそのときに発ガン物質やダイオキシンができることもあります。
しみ込んだ毒物は洗剤と水を使った洗浄では除去できませんので、リサイクルした材料を風呂のフタに成形するときも残ります。
かくして「家電製品に使えないリサイクル品は風呂のフタにでも使えばよい」ということが実現します。
プラスチックは高分子がぎっしり詰まった構造をしており、中にしみ込んだものが徐々に出てくるのが特徴です。しかも、風呂の場合は「お湯」で暖められます。最悪の条件なのです。
かくして風呂のフタの場合には繰り返し、繰り返し湯気がフタに当たり、それが冷やされて風呂の中に落ちますから、フタの毒物を溶かして風呂のお湯に入れていることと同じことになります。
プラスチックは水に溶けませんが、少しずつ湯気に当たると「白化」という現象が起こり割れたりします。そして中に含まれているものが徐々に溶け出す性質を持っています。
ところで、最近、二四時間風呂の一部にバイキン系の毒物が蓄積し、それで幼児が皮膚病にかかるという事例が新聞で報道されていました。
二四時間風呂はお湯を半永久的に循環するのでお湯の劣化やバイキン系の毒物の蓄積には格段の注意がなされ、慎重に研究されてきました。その意味ではよく設計され安全にも配慮された製品であり、環境の改善にも優れているといえます。
それでもこの種の病気が発生します。それに対してリサイクルの毒物循環はすべての製品に及び、そしてほとんど研究されていません。
もともと人間がすることですから不完全なところがあります。少なくとも危険性のあるものは慎重に取り組まなければなりません。「リサイクルは環境に良い」のではなく、「リサイクルは環境に悪い」のですが、頭の中は何となく「リサイクルは環境に良い」と思ってしまいます。そして、「環境に良いことをしているのだから、リサイクル堆肥もリサイクル・フクも体に良い」というように直結してしまいます。仮に、リサイクルが環境に良いとしても「環境に良いものが衛生的である」とは限らないのです。
環境を良くすることとリサイクルが関係がないのと同じで、リサイクルと健康とは直接には関係ありません。それより、現代の社会における毒物というものをよく考え、合理的に行動することが必要でしょう。
『リサイクル汚染列島』(青春出版社)武田邦彦著より