我等が學校にはいつてから、もう六年になります。入學した頃は、まだ幼くて、ものの道理もわかりませんでした。それが今では、日常必要な知識や技能も進み、また人の行ふべき道も一通りわかるやうになりました。我等がこれまでになることが出来たのは、教育を受けたおかげです。人は誰でも教育を受けて、はじめて善良有為の人となることが出来るのです。世に立って、農・工・商その他どんな職業に従事するにしても、教育を受けてゐなければ、よい成績を攀げることは困難で す。まして職業について改良進歩をはかるには、なほさら教育を受けてゐることが大切です。我等が善良有為でよく務を果たせば、我等はすなはちよい日本人であるのです。我が國民の一人一人が皆かやうな人であれば國は盛になります。

我が國では、明治五年に學制が定められて義務教育の基が立ち、同二十三年には教育に闊する勅語が下つて教育の大方針がきまりました。今日の制度では、各市町村が、その區域内の兒童を皆就學させるに足るだけの尋常小學校を設けることになってゐます。

國民はその子弟を滿六歳から必ず尋常小學校に入學させて、六箇年の課程を卒(お)へさせる義務があります。世界の文明國は皆義務教育の制度をしき、しかもなるべく修業の年限を長くすることにつとめてゐます。一國の文明の進歩も産業の發逹も主としてその國民の教育の程度によってきまります。國の繁榮を願ふ者は教育を受けることの大切なことを知らなければなりません。我等は尋常小學校を卒業して後も身體の獲逹に注意し、徳行を修め、知能を磨くことを怠らないやうにしませう。又事情が許せば、高等小學校や實業補習學校に入り、或は他の學校に進んで、十分に教育を受け、益々善良有為の人となるやうにつとめませう。

『国民の修身』監修 渡辺昇一