我等の家では、父は職業に励み、一家の長として我等を保護し、母は父を助け、一家の主婦として家事にあたり、共に一家の繁榮と子孫の幸福をはかつてゐます。父母の前は祖父母、祖父母の前は曾祖父母と、わ家は祖先が代々維持して来たものです。代々の祖先が家の繁榮と子孫の幸祗をはかった心持に於ては、いづれも父母どかはりがありません。我等はかやうに深い祖先の恩を受けて生活してゐるのです。この恩を感謝し祖先を尊ぶのは、自然の人情であり、また人の道であります。
一家の中で、一人でも多くよい人がゐて、業務に勵み、公共の事に力を盡せば、一家の繁榮を増すばかりでなく、また家の名譽を高めることになります。また僅か一人でも不心得の者がゐて、悪いことをしたり、務を怠ったりすれば、一家の不名譽となり、その繁榮を妨げます。一人の善悪の行は、たゞその人だけのことと思ふのは大きな間違て、一家全體の幸不幸となり、祖先の名にもかかはります。それ故一家の人々は、皆心をあはせて家の名譽と繁榮の為に力を盡し、祖先に對してはよい子孫となり、子孫に對してはりつばな祖先となるやうに心掛けるこどが大切であります。
『国民の修身』監修 渡辺昇一