今日文明諸國は皆協同して、戰爭を避け平和を保つために、出来る限りの力を盡してゐます。しかし、世界にたくさんある國と國との間には、いろ/\の原因からいつ戰爭が始らないとも限りません。それで、もし我が國にも禍が及んで、國の安危に闘するやうなことが起ったら一大事です。それ故に、我等が一致して我が國の防衛に心を用ひ、その安全をはかるのは最も必要なことです。
我が國は昔から一度も外國のために國威を傷つけられたことはありません。これは御代々の天皇の御稜威と我等の祖先が忠誠勇武であったこととによります。我等も祖先が心を―つにして守護して來たこの國を守つて、光榮ある歴史を汚す事のないやうにしなければなりません。
我が國民中、滿十七歳から満四十歳までの男子は皆兵役に服する義務があります。それで滿二十歳になると必ず徴兵檢査を受け、體格の完全て強牡な者の中、抽籤に當つた者は、現役兵となつて陸軍又は海軍に入ります。もし國に一大事が起った時は、現役にある者はもちろん、その他兵役に服する義務のある者は召集に應じて出征します。兵役に服して國の防衛に當る事は、我等國民の最も大切な義務であると共に、また大きな名譽であります。
我等は少年の時から身體をきたヘ元氣を養ひ、成長の後は徴兵檢査に合格して陸海軍に入り、名譽ある護國の義務を果すことが出來るやうにしませう。また軍隊に入ることが出來ない者でも、常に心身を養つて、萬一の國難にあたる覺悟がなければなりません。

我が國を防衛して其の存立を全うするには、陸海軍の備がなくてはなりません。國民の教育を進め國運發展の基を固くするには、學校を設けなければなりません。その他、公共の安寧秩序を保ち、通信・交通を便にし産業の發逹をはかるなど國民共同の福利を増すために國の為さなければならない事がたくさんあります。したがつて國にはこれ等の仕事をするための費用がいります。
我等は市町村民として市町村の費用を分擔するために、租税を納めなければならないことを學びました。國の費用も同様に、我等が國民として分擔するのが當然で、それがためにもまた租税を納めなければなりません。もし國民が租税を納めなければ國の仕事に必要な費用の出みちがなく國は何事もすることが出來ません。したがつて國民の幸福を進め國を盛にすることはとても望めないのはもちろん、國の存立さへ危くなります。納税は兵役と共に國民の大切な義務であります。
『国民の修身』監修 渡辺昇一