皇祖天照大神をおまつり申してある皇大神宮は、伊勢の宇治山田市にあります。神域は神路山のふもと、五十鈴川の流にそひ、いかにも神々しい處で、一たび此處にはいると誰でもおのづど心の底まで消らか皇室は一方ならず皇大神宮を尊ばせられます。天皇陛下は皇族を祭主に御任命になって御祭事をすべつかさどらせられ、祈年祭・神嘗祭・新嘗祭には、勅使をおさし立てになって幣吊(へいはく)ささげさせられます。勅使をおさし立てになる時には、天皇陛下は親しく幣物を御覧になつて、御祭文をお授けになり、勅使が退出するまでは入御になりません。なほ神嘗祭の當日には、宮中でおごそかに御遥拜(えうはい)の式を行はせられます。又毎年の政始(まつりごとはじめ)には、第一に皇大神宮の御事をきこしめされ、皇室や國家に大事のある際には、必ず皇大神宮に御親告になります。大正天皇の御卽位の禮を行はせられた時にも、御みづからその趣をお告げになりました。皇大神宮の宮殿は、二十年毎に新にお造りになって、おごそかに正遷宮の御儀式を行はせられます。
皇室は御遷宮の御事を至って大切に遊ばされ、明治四十二年に最近の御遥宮のあった時にも、明治天皇はこの御事を深く大御心にかけさせられ、前もつて工事等のくはしい書きものをさし出させて一々御寛になりました。
皇室はかやうに厚く皇大紳宮を御尊崇になります。
國民も昔から厚く皇大神宮を敬ひ、一生に一度は必ず參拜しなければならないこどにしてゐます。

【現代語訳】
第二課 皇大神宮
皇祖天照大神をお祀り申してある皇大神宮は、伊勢の宇治山田市にあります。神域は神路山のふもと、五十鈴川の流れに沿い、いかにも神々しい処で、ひとたび此処に入ると、誰でもおのずと心の底まで清らかになります。
皇室は一方ならず皇大神宮を尊ばせられます。天皇陛下は皇族を祭主に御任命になって御祭事をすべ司どらせられ、祈年祭・神嘗祭・新嘗祭には、勅使をおさし立てになって幣吊を捧げさせられます。勅使をおさし立てになる時に幣帛を捧げさせられます。勅使をおさし立てになる時には、天皇陛下は親しく幣物を御覧になって、御祭文をお授けになり、勅使が退出するまでは入御になりません。なお神嘗祭の当日には、宮中でおごそかに御遥拝の式を行わせられます。また毎年の政始には、第一に皇大神宮の御事を聞こし召され、皇室や国家に大事のある際には、必ず皇大神宮に御親告になります。大正天皇の御即位の礼を行わせられた時にも、御みずからその趣をお告げになりました。
皇大神宮の宮殿は、二十年ごとに新たにお造りになって、おごそかに正遷宮の御儀式を行わせられます。皇室は御遷宮の御事を至って大切に遊ばされ、明治四十二年に最近の御遷宮のあった時にも、明治天皇はこの御事を深く大御心にかけさせられ、前もって工事等の詳しい書き物を差し出させて一々御覧になりました。
皇室はかように厚く皇大神宮を御尊崇になります。国民も昔から厚く皇大神宮を敬い、一生に一度は必ず参拝しなければならないことにしています。
(六年生)

※ 幣吊…神様にお供えするものの総称
※ 幣物…幣吊と同様の意味

『国民の修身』監修 渡辺昇一