「黄帝内経」「五行大義」、王充の「論衡」など多くの書に、土は牌臓をつかさどると言われている。近年の中医学の書にも牌・胃とされ、日本における中医学においては消化器系の生理機能全般をつかさどるというのが定説となっている。しかし、牌臓は胃のうしろ側にあり、造血作用と古くなった赤血球や白血球を破壊するなどの機能をつかさどる臓器であり、どう考えても消化器系ではない。
「五行大義」の牌臓のはたらきにつ いて述べられているところには、「牌臓は食物を受け、盛んにするところである」とか「牌臓は倉稟(そうりん:米倉のこと)の本である」とか 牌臓は口に通じ、口は五穀を入れて胃がこれを受ける」とあり、消化器系として言われているようであるが、現在知られている牌臓の機能とはかけ離れている。
前述のように五行は臓器そのものを指すものではないので、日本における中医学の研究書にあるように、土は牌臓ではなく、消化器系全般に深く関わるものと理解すべきであり、特定の臓器にこだわらないほうが正しいと言える。また、牌臓はその機能からして、土ではなく、土に剋される水に属すると考えるべきである。実証的にも、士が関与する具体的な内臓器官は胃であると言え、さらに脂肪の分解に関与する胆汁の機能、そして膵臓の糖代謝機能も関わる。食道、十二指腸も消化器系であるが、食道は火の要素を含み、十二指腸は金の要素を含み、小腸は金に関連し、大腸は金とともに水の要素を含んでいると考えられ、消化器系とし てすべて土であるとして扱うことはできないと言える。また、鼻、皮膚、脂肪も上に属し、鼻の機能である嗅覚にも関わることになる。ガンなどで胃の摘出手術をすると嗅覚が失われることがあるが、これは胃と嗅覚がともに士に属することから理解することができる。
顔型は「面肥」といわれ、丸顔となり、肥満して顔が丸くなることをも含む。顔色は黄色であるとされている。
味覚は甘味をつかさどる。ただ単に砂糖に代表される炭水化物の甘みのみではなく、旨味と言われるものをも含む。化学的にはグルタミン酸ナトリウムとか、コハク酸といった成分も、土の象意に含まれることになる。
士には、五常の「信」が配されている。「信」から、信用、侶頼、自信という単語が思い浮かぶことと思うが、儒教における本来の意味も、「嘘を言わない、人を疑わない」ということである。
では、信の思考様式に与える実証的に有意な根源的作用は、一言で言うと「不変・不動」であり、「恒常性」ということである。変化せず現状を維持しようとする思考様式であり、保守性につながる要素がある。士が稼稽・田園にたとえられるのは、不動産と言うように、動かないという点に共通するところがあるからである。また、農業が土に属すると言われるのは、農業に従事する人は、住居を変えない、引っ越すことがないからである。
土地を耕すことが仕事であるから、農業は土に属すると言われているのではない。
ただ、四柱八字に土が多くある人が、農業とか不動産関係の職業に就いていたり、あるいは実家が農家であったりするのを見かけることはある。もちろんすべてではないし、ほかの視点からも見る必要はある。
また、どのような事態に陥っても、また、人に何を言われても考えが揺るがない、そういう人を信念があるといい、言動に一貫性があるため人の信用を得ることができるが、度を過ぎれば、物の考え方に柔軟性がなく、頑固とも言える。これらの良い面、悪い面ともに土の作用に起因している。
この土が火と共存して強いと、時に一度言い出したら梃子でも動かず、人の話に耳を貸さないことになり、よく言えば初志貰徹であるが、時に手の負えない性格の原因になることがある。
また、変化しない、保存するという作用から、記憶力に関わるのではないかと考えられる。脳の海馬と言われる部位の機能に関わるのではないかと思われる。さらに、恒常性という点から、種族保存本能、体温調節といった生物としての重要な機能にも関連があるのではないかと考えられるが、これらの点は実証的には明確ではない。
「四柱推命学入門」小山内彰 (希林館)より