また、この大運は10年ごとに交替することになるが、その交替する年齢は、「折除の法」という計算法によって求めなければならない。
折除の法により、大運の交替年は分秒まで厳密に計算することはできるが、それほど神経質になる必要はなく、日数以下は切り捨てて、何年何力月と概数にしても 支障はない。しかし、一応次にその厳密な計算方法を説明しておくことにする。
この計算法にも男女・順逆によって違いが発生する。
●大運が順に巡る場合
生日から次の節入までの日数を求め、3で割る。
●大運が逆に巡る場合
生日が含まれる節月の節入までの日数を遡って求め、3で割る。
となり、求めた答えが大運の交替する年齢となる。あまりが出ることがあるが、あまり1日は、4カ月を加算する。
あまり1刻は、10日を加算する。
右の四柱八字を男性として、大運の交替年齢を実際に計算してみることにする。
年干支が陰なので、男性は大運干支は逆に巡るので、前の節入、つまり、出生日時から生月である戌月の節入までの日時分を求めることになる。巻末の「干支暦 太陽暦対照表」によると、戌月寒露の節入時刻は、10月8日13時 33分なので、出生時刻の午後8時33分頃までの日数と時間を求めることになる。
10月15日20時33分-10月8日13時33分=7日7時間=約7日3.5刻となり、3で割ると、
7日3.5刻÷3=2‥‥あまり1日3.5刻
となり、答の2は、大運の交替年齢の2年に該当することになる。あまりの1日は4カ月、3.5刻は35日、つまり、約1カ月に相当するので、交替年齢の2年にあまりを加算して、最終的な答えは、
約2年5カ月となる。
つまり、右の四柱八字の男性は、出生後2 年5カ月経つと、大運は乙酉の干支となり、四柱八字に生剋・料の影評をおよぼし始めることになる。さらに、10年後の12年5カ月後には、大運干支乙酉は終わり、大運干支の甲申が四柱八字に関わり始めることになるのである。
なお、大運乙酉が始まる前の2年5カ月の間における大運の扱いには2通りの説がある。一つは、
●大運乙酉以前には、 大運はないとする説
もう一つは、
●生まれた直後から月千支丙戌と同じ干支が大運として作用するという説
である。このように論が二分した理由は、現在伝えられている古い四柱推命の文献中にこのあたりの考え方について明確に言われていないため、先人がどのように扱っていたのか不明だからである。「三命通會」ではただ単に「大運は月干支に起こす」と言われているのみで、読みようによっては、右の2説のいずれともとれる言い方しかされていない。清代に「滴天髄聞微」を著した任鐵樵氏、そして20冊紀初頭、台湾で活躍し「滴天闊微」の公刊に尽力した哀樹珊氏、また、近年最も活躍した徐築吾氏、「命理新論」の著者呉俊民氏らが、みな大連は月干支の次の干支から巡り、それ以前には大運はないとする立場に立っているので、最近では前者の説を採用する命家(四柱推命の専門家のこと)が多い。
しかしながら、大運は四季の巡りを人の一生に対応させたものであることからして、大運がない期間があるとは考えられないのである。大運がないということは、四季がない期間があるということになり、少々奇妙なことになるのである。本書では、右の四柱八字の大運乙酉の以前は、月干支の丙戌と同じ干支が大運として四柱八字に作用するという立場を採る。
次に、以上説明した大運の計算結果を、男性の場合でまとめておくことにする。なお、大運の交替年月を1カ月の端数まで表記すると煩雑さを増すのみなので省略してある。

男性  平成17年10月15日午後8時  東京都生まれ(真太陽時・午後8時33分頃)
大運(約2歳5カ月)
年 乙 酉(辛)     ~1歳  丙戌
月 丙 戌(辛)   2歳~11歳  乙酉
日 壬 申(庚)  12歳~21歳  甲申
時 庚 戌(戊)  22歳~31歳  癸未
          32歳~41歳  壬午
          42歳~51歳  辛巳
          52歳~61歳  庚辰

女性であれば、年干支が陰であるので、出生時間から 次の節入である立冬の節入の時刻、11月7日16時42分までの日時分を数え、同様に3で割って答えを求めることになる。計算結果は7年7カ月ほどになる。
なお、折除の法は古来より日数をもとにした計算法として伝えられているが、干支暦の構造からすると、黄経をもとにして計算するほうが正しいのではないかと考えられる。例えば、丑月は13日ほどあり、3で割ると10を超える。逆に1節月が30日に満たない節月もある。つまり、日数をもとにした計算すると、折除の法の前提である「大運は1運10年」から外れてしまうのである。しかし、黄経を元に大運交替年数を計算するなら、1節月は30度なので前提から外れることなく大運の交替年数を計算できるのである。
しかしながら、大運の交替年数を黄経を元にして計算するには、厳密な天文計算が必要になるため、ソフトウェアなしでは不可能になる。日数で計算したほうが簡便であるし、黄経で厳密に計算してもそれほどの差は生じないので、従来通り、折除の方法で計算しても大きな問題ではないと言える。
また、大運のほかに、小運と言われるものがあり、「星平會海全書」およびその他の書に、〈小運は大遥の不足するところを補うものである。〉
と言われている。小運は時干支から出し、大運が月干支から出すことに類似した考えが根底にあるとは推測されるが、月干支には旺相死囚休を決定する重要な作用があるが、時干支にはそうした重要な作用はなく、また、それ以前の問題として、実証的にまったく無価値なので本書では採用しない。

「四柱推命学入門」小山内彰 (希林館)より