これらもその意味するところを正しく理解しないと、五行の水はwaterであるなどという観念が頭のどこかに根付いてしまうから注意しなければならない。水を潤下という理由は、五行の水には、実際の水のように、その形が容器に左右されるとか、つねに表面は水平を保つとか振る舞いに似ている点があるということなのである。
また、「洪範篇」によって、五行論の初期の段階に五行それぞれに配当されたさまざまな具体的事柄を知ることができる。例えば、五味として、木には酸味、火には苦味、土には甘味、金には辛味、水には鍼味(塩辛味)が配され、五紀として、木には月、火には日、土には暦数、金には星辰、水には歳(木星)が配されている。中国最古の医学書である『黄帝内経』(こうていだいけい)も、陰陽五行論を理論的基盤としており、五行に配された、肝臓、心臓、牌臓、肺臓、腎臓の五臓を元に医学理論を展開している。五行に天体が配されているから、四柱推命は占星術であるといっている書があるが、それは本末転倒の話であって、大いなる誤解である。
既述のように、五行はもともとは四季の循環を記述する符号であった。そのため自然界に存在するすべての事物は、天からもたらされる四季という巡りの影響下で生成発展するものであるから、五行のいずれかに属していると考えられ、五行にありとあらゆる身の回りの事物が配当されることになった。
この五行への事物の配当は、改定と追加が繰り返されたため、書により内容が少しずつ異なっている。ある面では洗練されていったが、配当の根拠に経験と直感に依存する部分があったため、中には首肯し難いものや、こじつけがましいものがあって、すべてを無条件に受け入れることはできない。この点については「五行の事象」の項で整理して説明することにする。
「四柱推命学入門」小山内彰 (希林館)より