キーワード:散らす(分散)
渙、亨。王假有廟。利渉大川。利貞。
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渙は、亨る。王有廟に仮る。大川を渉るに利。貞に利し。
渙は渙散、散らす意、冬(炊)の氷結を暖風(巽)をもってとけ散らす卦象にとる。また人心をもって言えば、炊の加憂を巽風をもって吹き散らす卦意にも解される。序卦伝では、兌卦からこの渙卦に移る理由として「説びて而て後に之を散ず。故に之を受くるに渙を以てす。渙とは離るるなり」と述べられてあるが、人が説ぶ時は気持ちが怠慢となり物事が離散していくものであるから兌の次に渙が配されているという。天地自然の運行は、『元(春)亨(夏)利(秋)貞(冬)の絶え間なき循環(前述「乾為天」参照)であるから、人もまた、緩み、引き締まり、離れ、萃るのは理の当然である。この渙卦は、物事はすべて一度は渙散してもまたこれを萃めることによって亨るというのであり、そこで悪い者を散らし善い者を萃める(実際にはその反対もある)ために、あるいは離散した人心を萃めるために「王有廟に仮る」(沢地萃参照)わけであるが、さらに大川を渉るような大事業をも行ない、天下の民心を統一させて人心ことごとく君徳を仰ぎ信服させるように心がけなければならない。したがって渙の時は、正しい道を堅固に守るところにあるのであるというのが象辞の意味あいである。
〔大意〕渙(かん)は「散逸」「四散」などの意味があります。では、散り散りになって、良くないか卦というとさにあらず。いままでの困難、問題が解け散って、これから上昇運に入るという象です。
それは厳しい寒さに閉ざされていた山や湖の雪や氷がとけて、春が訪れるさまを連想せます。長い忍耐がむくいられるときといってよいでしょう。こういうときに処する態は一気に物事の成就を望んではいけません。
それはちょうど冬眠からさめて、穴から出てきた熊のようなもので、まだ強い光に慣ていません。
じゅうぶんに慣れてから新しい計画に取り組む用心深さが大切です。また功をあせるも禁物です。この卦は苦労や難問はとけてきえるが、実質的な恵みまでにはまだ時間がかるからです。
春は種をまく時期で収穫は秋である。この時期に功をあせると、せっかく育ちかけた芽を枯らせてしまいます。
またこの時期、人との接触に力を注ぐ必要がある。あなたにとって周囲の人々は植物水分や肥料に相当するものです。人との協力によってあなたは成功し、人を成功させるです。すべては賢明に行なわなければなりません。 さもないと人はあなたから去り、この卦の持つ上昇運は下降運に変じてしまいます。
易の卦はたとえどんなに上昇運であっても、その人の態度次第で逆の芽が出ることに徴があります。これは凶運の場合でも同じです。良いときにおごらず、悪いときに絶望ないことが、易の活用には絶対に必要なことなのです。
◎運勢 否を設定してその変化という見方をすれば、いままで困難であった人は、その辛苦が渙散して運気の向上とみるが、順調だった人は、幸運が離散して悪くなるとみる。
◎願望 渙散して通達しない場合と、悩みが散って通達する場合がある。
◎事業 信用・取引・金融・人事など離散しやすい。しかしいままで艱難辛苦してきた内容のものは限みが解けて発展に向かう。なお会社の解散とか、あるいは解散した会社を再建するとか、判断が正反対になることがあるので、求占者の実際面にあてはめることが大事である。
◎結婚 否の変化という見方で善い場合と悪い場合がある。なお内卦が炊で家庭内が冷たいとか内に悩みを蔵するなどとみることも大事である。
◎交渉事 大体、離散していくことが多い。
◎家出人 異性関係の原因が多く、戻りにくい占である。
◎待ち人 この占も内容によって来る場合と来ない場合の二通りの判断になる。
◎病気 呼吸器・腎臓・泌尿器・消化器系のほかに酒毒・血毒症状などが考えられる。なお、病気が渙散して治るとか、健康が渙散して病気になるという考察も必要である。
- 初6:戦いの日のために備えをしなさい。
用拯。馬壮。吉。
九二の剛中に順ってゆけば吉。
- 二9:あなたに敵意を持つ人を許しなさい。
渙奔其机。悔亡。
離散の傾向ある時は急いで頼辺(よるべ)に奔れ。願を得て咎はない。
- 三6:あなたの目標はあなたが感じているような形になるでしょう。
渙其躬。无悔。
民の離散を済う大業を興す為にはその身を投げ出してかからねばならぬ。さらば悔いなし。
- 四6:世の正しい原理を踏みはずした人は敬遠しなさい。
渙其群。元吉。渙有丘。匪夷所思。
一身を渙するばかりでなく、その徒党を渙散してしまうことである(渙群)。渙すれば本当に民が丘(あつ)まる。権力政治に疲れた民衆の思う所である。さすれば、元吉。光大である。
- 五9:問題が発生するが、解決をあせってはいけない。
渙汗其大号。渙王居。无咎。
其の大号を汗す。王者が居って位を正すのである。咎なし。天下に王の大号令を発する。これは絶対である。汗の一たび出れば散じて再び戻らぬように、綸言・汗の如しである。大詔渙発はこれに基づく。
- 上9:回り道をするほうが早く目的地につく。
渙其血、去逖出。无咎。
其の血を渙す。去って逖(とお)く出ず。咎なし。血は汗血と言って、労苦・害悪の象徴である。要するにそういうものを散じてしまうことである。又この位に居る者は超然として古の賢者・陰士のように、派閥闘争、功名の争いから逃れ出なければならぬ。さすれば咎はない。
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「マーフィの易い」J.マーフィ(昭和61年、産能大学出版部)を参照しています。