私はこのさい、この関係者のだれもとがめようとは思いません。運命、それもみんなの運命だったろうと思っているだけです。ただこの人に吉方への就職をすすめた私としては、むしろそれはよかったですねえと、虚心に喜んであげたいような気がするのですが。この例の八白の星のいる方角にくらべれば、六白の星のいる方角のほうはいくらか地味になってきます。同じ社交性を発揮するにしても、裏にがっちりした背景のある場合のセールスというような場合だと思っていただけば、その感じはおわかりでしょう。そしてこの場合には、仕事にかなりの永続性がありますし、あなたがその道のべテランになって成緞をあげるためにも、それほど時間はかかりません。
もしもあなたが、技術的な能力を活かすような仕事を選びたいなら、二黒の星のいる方角に行動するのが最善でしょう。こちらの方角の職場は、一見とても地味に見えますが、仕事自体はたいへんな発展性を持っています。それに、こちらの職場で努力と勉強をかさねれば、あなた自身に身についた財産とでもいいたいような知識と経験がそなわってきます。そういうものはいずれ大きく花を咲かせることになるでしょう。
一白の星のいる方角に当たる職場は、一見平凡のように見えます。仕事もあまり目だたないような感じですが、基礎はしっかりしていてまちがいはありません。名を捨てて実をとるという意味では、この方角の職場が最善かもしれません。物質的にはめぐまれますが、ただ何年かしているうちには、あなたのほうがいやになってきて、職場を替えたくなるかもしれません。しかし、最初の経験はけっしてむだになりませんし、つぎの段階の仕事にもかならず大きく役立つでしょう。
私のむかしの後輩に、脊椎カリエスをわずらった七赤生まれの人がいました。なんといっても戦争中にこんな難病をわずらった日には、生死五分五分と言っても言いすぎではなかったでしょう。彼は工学部の応用化学を専攻していたのですが、もしその時点で軍需会社にでも勤めていたら、おそらく過労のために病勢が懇化して、中途で倒れたのではないかと思われます。
幸い彼は私の忠告をよく聞いてくれたので、私は二黒の星のいる方角の研究所に勤めることをすすめました。待遇はもちろん民間の軍需会社ほどよくありませんでしたが、戦争中から戦後にかけて、ゆっくりと自分のペースで仕事をつづけているうちに、彼はようやく健康を回復しました。
私の同期の工学部卒業生は、たいてい軍需会社に就戦したのですが、戦争が終わると同時に大半が職場を失って、再就職にはずいぶん苦労したものです。彼などはその点でも逆に幸せだったかもしれません。彼は結局、この研究所で工学博士の学位をとり、二黒の吉方に当たっていたある会社に就戦して、そこの技術陣を代表する一人となっています。
◎出典 「改定方位学入門」高木彬光著 カッパブックス及びブログ作者の収集データーによる◎