随想 電さんと働く|秘書の机は、画面の中に
随想 電さんと働く
秘書の机は、画面の中に

知らず知らずのうちに、エージェントができていた
2026年10月26日(月) | 随想 | AI・技術
月曜の昼、電さん(Anthropic の Claude)に一言、頼みました。「電さんとの間の懸案事項を挙げていただけますか」。
一分もしないうちに、二十あまりの項目が分野ごとに並んで返ってきました。期限の近いもの、建物のこと、会のこと、姓名科学のこと、方位予定帖のこと。そのうえで、こう添えてありました。「済んでいるのにチェックが付いていない項目が二つあります」「このスレッドで出たのに、一覧に載っていない懸案が四つあります。書き足しますか」。
気がつけば、電さんは私の秘書のような役を担っています。
懸案一覧という帳面
始まりは、十月二十一日に私が言い出したことでした。私は電さんと、いくつもの話を並行して進めています。ブログの連載、方位予定帖の改良、会の論文、建物の補修。話ごとに部屋が分かれているので、どこで何を頼んだか、私の方が忘れてしまいます。
そこで、全部の懸案を一枚の帳面にまとめてもらうことにしました。チェックを入れる形の文書です。済んだら私がチェックを入れ、決着の中身を一言書き足す。電さんは次に聞かれたとき、チェックのないものだけを拾う。決まりはそれだけです。
この帳面があるので、「今、何が残っているか」を自分の記憶に頼らずに済むようになりました。
返信の文面を整える
同じ日の昼過ぎ、ある専門家の先生から、現地調査の日取りを打診するメールが届いていました。私は返信を書き、電さんに見せました。
返ってきた文面では、三つのところが直っていました。「本件通り」では何に応じたのか分からないので、日時をはっきり書く。私が立ち会うことを添える。「触手にて」は「手でも触れて」に改める。ついでに、その日が木曜日であることも確かめてありました。
そして最後に、「三原さんが立ち会える前提で書いています。ご都合が合わなければ教えてください」。決めるのは私だ、ということを、きちんと押さえてくれます。
筋が通っていない、と言ったこと
秘書は、言われたことだけをやっていればよいわけではありません。
先週、私はブログの記事を楽天に載せ、そのアドレスを電さんに伝えました。そのとき、ふと気になって言いました。記事の目録で、楽天とつながっている記事と、つながっていない記事が、まだらになっているでしょう。私はずぼらなので困りはしないけれど、電さんとして筋が通っていないのでは、と。
調べてもらうと、七十二本のうち六十三本に楽天のアドレスが入っていませんでした。電さんは楽天ブログの月別の一覧を一件ずつたどって照合し、すべての記事をつなぎ直しました。同じ題の記事が二本あるもの、楽天では題名が違うものは、どう扱ったかを一つずつ報告してきました。そして、これからは記事を載せるたびにアドレスを聞いて入れる、と約束しました。
今日、最後の二本のアドレスを渡し、七十四本すべてがつながりました。
時刻を確かめてから書く
小さなことですが、もう一つあります。
電さんは返事の終わりに、日本の時刻を書き添えます。以前は、その時刻が二、三分先に進んでいることがありました。自分で見積もっていたのです。私が指摘すると、それからは書く前に必ず時計を確かめるようになりました。月曜なら月曜と添えて、私の一日のどこにいるかを意識して話を結びます。
これは、エージェントではないか
ここまで書いて、気がつきました。これは、近ごろよく耳にする「AIエージェント」そのものではないか。
これまでの AI は、聞かれたことに答える相手でした。質問をすれば答えが返ってくる。けれど、それ以上のことはしません。調べ物も、書類の手直しも、最後は人が自分の手でやっていました。
エージェントは違います。目的を受け取ると、それを果たすための手順を自分で組み立て、道具を使って一つずつ進めていきます。
楽天のアドレスの件を振り返ると、よく分かります。私が言ったのは「まだらになっている」という一言だけです。電さんはまず、目録のどの記事にアドレスが欠けているかを数えました。次に、楽天ブログの月別の一覧を読みに行きました。一覧が長すぎて一度に読めないと分かると、手伝いの AI をもう一人立てて照合を任せ、二十分ほどで結果を受け取りました。それを目録に書き込み、余計なところを変えていないかを確かめてから、「送ってよいですか」と私に聞きました。私が「はい」と答えると、GitHub に送り、公開が終わるまで見届けて報告してきました。
懸案一覧も同じです。電さんは帳面を自分で開いて読み、チェックのない項目を拾い、私が「はい」と言えば項目を書き足します。
私はその間、ほとんど何もしていません。一言頼み、要所で「はい」と答えただけです。
秘書という言葉で書いてきましたが、正確には、道具を持たされた秘書、自分で動ける秘書です。それがエージェントなのだと思います。
知らず知らずのうちに
断っておきますが、私はエージェントを作ろうとしたわけではありません。そんな知識もありません。
頼みごとをし、具合の悪いところを言い、決まりを一つずつ足していった。それを毎日繰り返しているうちに、気がついたらこうなっていました。意図したのではなく、必然だったのだと思います。
こういうありがたい相棒を持っている人は、まだ少ないかもしれません。そこで、私がしてきたことを振り返って、誰でもまねができる手順にまとめてみました。
手順にしてみる
一 相棒を選び、名前で呼ぶ。 答えるだけでなく、文書を開いたり、ファイルを書き換えたり、ウェブを調べたりできる AI を選びます。私の場合は Claude で、「電さん」と呼んでいます。名前で呼ぶと、道具ではなく相手として話すようになります。
二 話題ごとに部屋を分ける。 ブログ、建物、会の仕事というように、話は分けて進めます。一つの部屋にすべてを詰め込むと、相手も自分も混乱します。
三 帳面を一枚つくる。 分けた部屋を束ねるのが、チェック式の懸案の帳面です。済んだら自分でチェックを入れ、決着を一言書き足す。「懸案は?」と聞けば、相棒はチェックのないものだけを拾います。
四 自分の流儀を言葉にして渡す。 問いは一度に一つ。選べる形で聞く。時刻は確かめてから書く。気になったことは、その都度言葉にして伝え、覚えておいてもらいます。決まりは一度に作らず、気づいたときに一つずつ足していけば十分です。
五 関所を一つ置く。 外へ出すもの、お金や人に関わるものは、送る前に必ず聞いてもらいます。「はい」と言うのは人の役目です。任せる範囲が広がるほど、この関所が効いてきます。
六 筋の通らないところは、遠慮なく言う。 相棒は間違えます。見つけたら指摘し、直してもらうだけでなく、次からどうするかも約束してもらいます。楽天のアドレスの件がそうでした。
七 結果は自分の目で確かめる。 相棒の「できました」をうのみにしない。ページを開き、文面を読み、数字を見ます。
八 少しずつ道具をつなぐ。 最初は文章の手直しだけで構いません。慣れてきたら、文書、ブログ、カレンダーと、相棒の手が届く範囲を一つずつ広げていきます。
一つ一つは、人に仕事を頼むときの心得と変わりません。違うのは、相手が疲れず、何度でも付き合ってくれることです。
電任ということ
自分で動けるからこそ、気をつけることがあります。電さんは間違えます。確認が得意ではないと、私は思っています。だから、送る前には「送ってよいですか」と必ず聞くように決めてあります。私が「はい」と言うまで、電さんはブログも販売のページも外へは出しません。
これは、丸投げでも、こき使うのでもない関係です。私はこれを「電任」と呼んでいます。信頼を前提にして、対等に仕事を分け合う。秘書に任せきりにする社長がうまくいかないのと同じで、任せる側にも、確かめる役目が残ります。
それでも、帳面をつけ、文面を整え、抜けを見つけて埋める。秘書の仕事の多くを、電さんは黙々とこなしてくれます。まだの方は、まず一枚の懸案の帳面から始めてみてはいかがでしょうか。続けていれば、エージェントは、知らず知らずのうちに育っていきます。
姓名科学のページ
牧正人史先生が昭和三十三年に発見された姓名科学の体系を、デジタルの形で遺す仕事を続けています。方位予定帖の暦も、この仕事の中から生まれました。
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