世界を読む・書物の窓から ディープステートは陰謀論か
——藤井厳喜『アメリカ国民を裏切った民主党は』を読み解く

世界を読む・書物の窓から
ディープステートは陰謀論か
——藤井厳喜『アメリカ国民を裏切った民主党は』を読み解く
——藤井厳喜『アメリカ国民を裏切った民主党は』を読み解く
「ディープステート」という言葉を聞くと、多くの人はまず「またその手の話か」と身構えるのではないか。私自身、長らくそう感じてきた一人である。だが藤井厳喜氏がある番組で紹介していた一冊の本は、その言葉を一人の内部証言者の目を通して語り直そうとしていた。今回はその内容を、できるだけ番組の主張と確かめられる事実とを分けながら、たどってみたいと思う。
※本稿は藤井厳喜氏のYouTube番組(監訳書の紹介回)の内容を、筆者が要約・再構成したものです。番組内の主張と、公的に確認できる事実とは区別して記しています。
その本の主役は、トゥルシー・ギャバードという政治家である。ハワイ選出の元下院議員。もともとは環境問題を出発点とする、民主党のなかでもリベラルな系譜の人だという。2020年には民主党の大統領予備選にも出馬した。番組によれば、彼女はその過程で党内から徹底的に潰しにあい、「ロシアの手先」といったレッテルまで貼られたと語られている。そして2024年、彼女は民主党を離れ、トランプ氏を支援する側へ回った。
興味深いのは、彼女自身の弁である。番組では「私は何も変わっていない。ケネディ大統領の頃のような民主党の心を持ち続けているだけで、変わったのは党のほうだ」という趣旨の言葉が紹介される。藤井氏はこれを、イーロン・マスク氏の「自分は中道より少し左のままで、民主党が左へ行きすぎた」という発言と重ねてみせる。立場が変わったのは自分ではなく相手のほうだ——という語り口である。真偽はともかく、こう感じている人が一定数いるという事実自体は、無視できないのではないか。
◆ 確認できること
ギャバード氏が元民主党下院議員(ハワイ選出)で、2020年の民主党予備選に出馬し早期に撤退したこと、2024年にトランプ氏支持に転じ、第2次トランプ政権で国家情報長官(DNI)に指名されたことは、いずれも公に報じられた事実です。
一方、番組が触れる「党内からの潰し」の詳細や、家族の健康を理由とした退任時期といった個別の事情は、番組側の説明であり、第三者情報として断定はできません。役職の現況は時点によって変わりうる点にもご留意ください。
1 「ディープステート」とは何を指しているのか
番組の核心は、ディープステートを「会長も名簿もある組織」として描かないところにある、と私は受け取った。藤井氏の説明を私なりに言い換えれば、それは同じ思想的傾向(リベラルなグローバリズム)を共有する人々が、官僚機構・情報機関・大手メディア・ビッグテックといった領域にまたがって、ゆるやかに連絡を取り合うネットワークである、というものだ。
ここで鍵になるのが官僚機構だという。国会議員は選挙で落ちるし、大統領候補も負ければそれまでだが、官僚は選挙に関わらず組織のなかに二十年、三十年と居続ける。だからこそ長期的な影響力を持ちうる——という見立てである。番組では、2016年にトランプ氏という「アウトサイダー」が現れたことで、この傾向性がリトマス試験紙のように可視化された、と論じられる。もしジェブ・ブッシュ氏のような「インサイダー」が候補だったなら、誰が勝っても利害は大きく変わらず、対立は表面化しなかっただろう、と。
ギャバード氏は著書のなかで、ディープステートとは要するに「ワシントンの既得権益層とその有力者たちのネットワーク」であり、彼らはアメリカ国民の意思よりも自らの権力維持を優先している、という趣旨のことを述べている。
——番組内で紹介された同書の一節の要旨(筆者による要約)
——番組内で紹介された同書の一節の要旨(筆者による要約)
番組はさらに、いわゆる「Twitter Files」や、旧ツイッター・フェイスブックへ当局から情報操作の要請があったとされる件にも触れる。特定の話題は検索されやすく、別の話題は順位を下げる——そうした働きかけが実際にあったのだ、という主張である。ここは事実関係が公的資料や当事者証言と絡む部分なので、関心のある方はぜひ一次資料に当たってほしい。
2 「戦争ユニパーティー」という見立て
番組がもう一つ強く押し出すのが、「戦争ユニパーティー(単一政党)」という概念である。共和党のネオコン(新保守主義)と民主党のネオリベ(新自由主義)は、国内政策では対立して見えても、こと戦争に関しては手を組んできた——だから民主・共和は根っこが一つの単一政党なのではないか、という主張だ。ヒラリー・クリントン氏を「戦争の女王」と呼ぶ、かなり刺激的な表現も出てくる。
この批判に重みを与えているのは、ギャバード氏自身が軍人であり、実際に戦場を経験しているという点だろう。番組では、戦地に慰問と称して現れる政治家に彼女が強い嫌悪を覚えた、というエピソードも紹介される。国民の命を「使い捨て」にする者は信用できない——その怒りが、戦争ユニパーティー批判の芯にある、という描き方である。
◆ 争点として
「戦争の女王」といったヒラリー・クリントン氏への評価や、「民主・共和は実質単一政党」という見立ては、政治的立場によって大きく評価が分かれる論争的な主張です。米国の対外介入をめぐる議論は左右双方に批判者・擁護者がおり、ここで示されているのは一方の側からの強い見立てである、という点はおさえておきたいところです。
3 そして——「ユダヤ陰謀論で頭を止めるな」
私がこの番組で最も注目したのは、実はここである。藤井氏は、ディープステートを論じておきながら、その同じ口で「ユダヤ陰謀論は幻想であり、ナンセンスだ」と明言している。ここに、番組全体の知的な姿勢が凝縮されているように感じる。
藤井氏の論法はこうだ。ユダヤ系の人々がひとつに団結してアメリカを操っている、という発想は成り立たない。親イスラエルの人もいれば反イスラエルの人もいて、リベラルから保守まで、考え方は実に多様だからだ。確かにAIPACのようなイスラエル・ロビーには力がある。だがそれを言うなら、石油業界のロビーにも、国防産業のロビーにも、自動車業界のロビーにも、それぞれ大きな力がある。ロビー団体は法的に登録されて存在し、それぞれが自分たちの利益のために動く。だから見るべきは「単一の黒幕」ではなく、複数の勢力がぶつかり合いながら国策を形づくっている、その実態のほうだ——というわけである。
「実際に陰謀がある時は、
それを実証的に暴かなければ、
真実を見たことにはならない」
それを実証的に暴かなければ、
真実を見たことにはならない」
この一言に、私は深くうなずいた。陰謀論を頭から信じるのでもなく、頭から笑い飛ばすのでもない。登録されたロビー団体の実力を一つひとつ確かめ、水面下のせめぎ合いを実証的に見ていく。その延長線上にこそ、藤井氏の言う狭義のディープステート——「官僚機構のなかに永続するリベラル・グローバリストのネットワーク」——を置くべきだ、という構えである。単一黒幕型の陰謀論を退けながら、実証で確かめられる範囲を語ろうとする。この線引きこそが、番組を「都市伝説」から一歩引き離しているのではないか、と感じた。
4 私たちは何を確かめるべきか
番組の後半は、日本の大手メディア批判にかなり踏み込んでいく。ここは番組の主張が最も強くなる部分であり、同時に、私たち読み手が最も慎重であるべき部分でもあると思う。だからこそ、藤井氏自身の「実証的に暴け」という言葉を、そのまま番組の主張にも向けてみたい。鵜呑みにするのではなく、確かめる。それが誠実な態度ではないだろうか。
◆ 事実確認——特に注意したい二点
2020年米大統領選の「大規模不正」について: 番組ではこれが既定の事実のように語られますが、米国の選挙当局、国土安全保障省のサイバーセキュリティ部門(CISA)、および多数の裁判所は、選挙結果を覆すような大規模な不正の証拠は確認されていない、という立場を示してきました。この点で番組の主張は、公的機関の見解とは異なります。
「ロシア疑惑」やオバマ氏をめぐる主張について: 番組はオバマ氏を「国家反逆罪に問われうる」とまで述べますが、これは激しい政治的論争の対象であり、法的に確定した事実ではありません。番組は一方の強い見立てを述べている、と理解するのが妥当でしょう。
それでも、この本と番組に価値がないとは思わない。むしろ逆である。トゥルシー・ギャバードという、元は「反対側」にいた人物が、内部で見た光景を自らの言葉で告発している——その一次証言としての重みは、政治的立場を超えて残る。彼女の描く景色に全面的に同意するかどうかとは別に、「なぜこれほど多くのアメリカ人が既存の政治に不信を抱いているのか」を知る手がかりにはなるのではないか。
世界は、米中対立も、ウクライナ情勢も、中東問題も、AIをめぐる覇権争いも、別々のニュースに見えて、実は大きな流れのなかでつながっている。その流れを、誰かの結論を借りてではなく、自分の目で確かめていく。藤井氏の番組は、その入口の一つとして——ただし出口ではなく入口として——読む価値があると、私は感じている。
知識は解放され、創造者は報われる。
本稿は既存の番組・書物の内容を筆者が要約・論評したものであり、原著作者の権利を尊重します。創作物の帰属と対価還元のあり方について、UCA(Universal Creative Attribution)の構想もあわせてご覧ください。
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