連載:至誠の覚醒 第三十五話 先に内定をくれたところへ

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連載:至誠の覚醒 第三十五話 先に内定をくれたところへ

四年間、多磨塾で鍛えられた。
気がつくと、この仕事を一生やってもいいと思うようになっていた。子どもたちの前に立つことが、苦ではなかった。むしろ、そこに自分の居場所を感じていた。
卒業を前に、筒田先生に伝えた。
塾に残りたいのですが、だめですか。
先生は優しい笑みを浮かべた。そして言った。
こんなやくざな仕事は、一度社会に出て、子どもを持って、定年を迎えてからでも十分間に合う。一度社会に出なさい、と。
やくざな仕事、という言葉が耳に残った。自分が四年間打ち込んできたものを、先生自身がそう呼んだ。卑下ではなかった。愛情だった。だからこそ、外へ出ろと言った。
私は就職活動を始めた。
田中ゼミは就職に強かった。大手メーカー、食品会社、金融機関。先輩たちが各企業で実績を上げ、ゼミに枠を与えてくれていた。成績の良い者には、優良企業への推薦が得られた。
私はゼミの中では不真面目な部類だった。塾に時間を取られ、勉強は後回しにしてきた。日産自動車の推薦を受け、面接に臨んだ。
するとある日、思わぬ話が来た。
成績トップのはずのゼミ仲間が、最優良枠の食品メーカーを受けないというのだ。空いたから、お前行け、ということになった。味の素だった。
二社を受けた。内定通知は、日産、味の素の順で届いた。
田中先生が喜んでくれた。筒田先生も、よくやった、と言ってくれた。そして二人とも、同じことを言った。
先に内定をくれたところに、敬意を払って行くのが筋かな、と。
二人の先生が、同じ言葉を言った。それは偶然ではないような気がした。私は日産自動車に決めた。
入社前、日産自動車の本社を初めて訪ねた。
その日、何か嫌な予感がした。
なぜそう感じたのか、うまく説明できない。建物のせいでも、人のせいでもなかった。ただ、胸の奥で何かが警告を発していた。その予感の正体を知るのは、ずっと後のことだ。そしてそれは、私の人生を根底から揺るがすことになる。
数字が世界を映す、ということを初めて感じた時代だった。その感覚の正体を、今もこのサイトで問い続けている。

(つづく)R080413

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