連載:至誠の覚醒 第三十二話 本の読み方
三年次になって、田中ゼミに入った。
田中喜助先生のゼミだった。それまでの私は、大学にいながら大学にいなかった。キャンパスを歩き、授業に出て、単位を取った。しかしそれは、大学にいたということにはならなかった。
田中先生のゼミに入って初めて、私は大学にいることを自覚した。
最初に手渡されたのが、ハロッドの経済学の本だった。薄い本だった。これを一年かけて読む、と言われた。薄い本を、一年かけて。最初は意味がわからなかった。
先生の授業が始まった。
本に書かれているのは、事実だった。経済の動き、需要と供給、数値と推移。それ自体は、読めばわかる。しかし先生はその事実を、数式に変えていった。一行一行、丁寧に。言葉を数式に置き換え、関係を可視化し、需要と供給の曲線として描き出した。
本が、別の顔を見せ始めた。
一ページの行間に、何十冊もの研究が潜んでいた。著者がその一行を書くために、どれだけの先行研究を踏まえたか。どれだけの思考を積み重ねたか。その痕跡が、行間に透けて見えるようになった。
先生はこう言った。
博士とは、世界でその項目について誰よりもよく知っている人間に与えられる勲章だ。博士論文とは、それを証明する書類だ。学説とは、その証明そのものだ。
私はその言葉を聞いて、初めて学問というものの輪郭を感じた。
それまでの勉強は、知識を入れることだと思っていた。覚えて、解いて、点数を取る。しかしそれは勉強ではなかった。勉強とは、一行の背後にある無数の思考を辿ることだった。行間を読むとは、比喩ではなかった。文字通りの技術だった。
薄い本を、一年かけて読む。
その意味が、ようやくわかった。
(つづく)R080410

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【無料】牧正人史式 姓名科学 解析システム
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
#牧正人史 #マシレ予測 #姓名科学


コメント