連載:至誠の覚醒 ―第5話― 【深淵からの帰還 ― 鷹野氏の遺言と撤退の決意】

宋氏との関係が歪み始める中、私はもう一人の人物、鷹野氏と邂逅する。
彼は世界の裏側を見通す眼を持つ男だった。鷹野氏から譲り受けたのは、かつて日本の「深層」に触れた者たちが集ったという秘密の事務所。

そこで私は、JAL123便の真相や、歴史の表舞台から消された巨大な資金の行方といった、沈黙の真実の断片を耳にする。
「事実は、知らせてはならない人たちの手で伏せられるのだよ」
鷹野氏の静かな声が、私の胸に深く突き刺さった。

2006年12月。宋氏の欺瞞が決定的となり、私は「旭光ラボ」からの撤退を決意する。
築き上げた計画も、拠点も、すべてを失う敗北。一家野垂れ死にの恐怖が背中を走る。
しかし、その時、龍崎先生は電話越しに、慈愛に満ちた声でこう仰った。
「今は引く時です。しかし、このどん底を経験した今のあなたには、もう欺瞞を見抜く力がある。引くことは、次の勝利への『伏せ字』ですよ」

私は、鷹野氏から受け取った「真実への渇望」と、龍崎先生の「数理」を胸に、事務所に鍵をかけた。

2006年の冬、駅のホームで凍える手に持っていたのは、あのボロボロになった収支計算書だった。
「いつか、誰もが自分の労力を正当に評価され、嘘に奪われないシステムを作らねばならない」
あの時、泥濘の中で誓った祈りが、20年の時を経て、今、私が構想している「量子ブロックチェーン」の原動力となっている。
騙された痛みも、57万円の赤字も、すべてはこの日のための「絡合(らくごう)」だったのだ。