「グリーン購入」は資源の三倍のムダ使い
政府が「グリーン購入(調達)」として買うものの基準が二月一日に定まり、新聞に発表されました。これを推進する法律は「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」という名前で通称「グリーン購入法」といいます。
このグリーン購入で指定された典型的な商品に「グリーン購入ボール ペン」があります。指針では、このボールペンはリサイクルされた樹脂を四〇パーセント以上使うのですが、これまでの「グリーン購入の基準に合わない新品のボール ペン」に比べて、「グリーン調達ボールペン」は約三倍の資源を使います!
この結果にビックリされる人も多いでしょう。
国が「グリーン購入」を定めた理由は「環境を守る」ということです。「環境を守る」ということは、具体的には「ゴミやエネルギーの消費を減らすこと」でしょう。それなら、資源を三倍使うボールペンが、なぜ「グリーン購入」なのでしょうか?
わたしたちの現在の状況をじっくりと見直すために、最後に「政府も間違う」という例を考えて、この章を終わりたいと思います。
そもそも、「グリーン購入」という発想が生まれたのは、今から二〇年ほど前にイギリスで「緑の消費者(グリーン・コンシューマー)」という運動が起こったことに端を発しています。その頃、日本ではまだバプルの最中で環境などほとんどの人が考えていなかった時代でしたが、ヨーロッパでは多くの国が寄り集まっていることや、一つの川が数か国をとおって海まで流れる、というような状況にありましたから、日本より環境の悪化に早く気がついたのです。
そこで、環境ということをキーワードとして、「緑の消費者」という考え方を作り、ともに環境を守ろうとしました。その運動に参加している人たちがものを買うときの基準、それが「グリーン購入」だったのです。たしかに、環境を守ることが大切な時代ですから、それを政府や自治体に任せることなく、消費者自身が考え、商品を選ぶことは環境に良いことです。
ヨーロッパで始まったこのグリーン購入運動の考え方を日本に輸入することになりました。環境を守る人や政府は、環境先進国と言われるヨーロッパの動きが特に気になるらしく、「リサイクルはドイツ」、「風力発電はデンマーク」、「グリーン購入はイギリス」とすべての国のまねをしたいと思うのは日本人のクセのようです。かくして、日本でも大々的に「グリーン購入活動 」が始まります。
ただ、もともとは消贅者の運動だったグリーン購入も日本に輸入されると、様変わりします。まず、企業がこれに飛びつきます。「グリーン商品」という名前を利用して、売り上げを伸ばそうとします。そしてそれをさらに盛り上げるために、例えば「グリーン購入グランプリ」という賞をもうけ、その道の先生を審査員にして優れたグリーン商品を開発したり、販売したりした企業を表彰し、それを宣伝に使うことを認めます。
次に政府が「グリーン購入法」という法律を作って、国民にグリーン購入を強制するという具合に進みます。ヨーロッパの方法を輸入してまねているようで、ちゃんと日本流に翻訳しているところは、異文化を取りこむのに卓抜な才能を持っている日本ならではのことのように思います。
そのうち、国民も「グリーン購入」というのは消費者がものを買うときに考えることではなく、政府が主導し、企業が行うものだと錯覚してしまいます。
もともと、環境というのは「ノルマ」を決めてそれを達成することではないのですが、日本の悪いクセで、すぐ「達成目標」を立て、足並みをそろえ、それについてこない人を非難するという道筋に入ります。いつものことです。
『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊)
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