日本社会を不幸にするエコロジー幻想 武田邦彦 青春出版社刊より
はじめに
毎日、忙しく、一所懸命に生きていけば、その先に幸福がある‥‥。
そう思いたいし、そう思って毎日を生きているのですが、この頃、何か空しくなり、この先に幸福があるか不安になります。時には、このように、もがくのをやめて遠くに行きたいと思うことすらあります。
現代の日本人は、「漠然たる不安」と「何となく不満」のなかで生活をしています。
なにがわたしたちを不安にしているのでしょうか?
わたしたちが感じる不安はあまりに漠としてその正体が判りませんが、次第に暗雲はたれ込め、社会、環境、はては政治経済にまでその影を落とし始めました。
本著はこの得体の知れない不安の原因を整理し、その姿を描画しようとするものです。
考えてみると、明日の食物にありつけないということもなく、むしろどちらかというと肥満や健康に気を配って食 べるものを減らしているほど。
ひと昔前に比べれば、まともな生活はできるようになってきているように感じるのですが、それがなぜか満足感につながらないのです。
その原因には政治や経済といったこともあるでしょうが、むしろ、そんなことより、もっと身近なこと、自分の身の回り のことに何か間違いがあるように感じられるのです。
それに、わたしたち自身が気がついていないことのほうが、むしろかなり深刻で恐ろしいこと かもしれないのです。かつて、多くの人が悲惨な戦争に巻き込まれたときも、そして、つい最近、バプルで大きな痛手を受けたときも、始まったときには誰もが気がつかず、誰もが行く手にあんな酷いことが待っているとは、夢にも思わなかったのです。
本著は、その正体を「現境」をキーワードに、科学の助けを借りて、描画してみたいと思います。
二〇〇一年三月三日
芝浦にて
武田邦彦
『日本社会を不幸にするエコロジー幻想』 武田邦彦著 (青春出版社 平成13(2001)年刊)
20231004