祖先の国が見えて西進が止まった?
アメリカ人の間で、これらの戦争にさしたる反対が起きなかったのは当然です。慣性の力なのですから。西に行くのに、新たな力を必要としません。社会を説得する必要がないということです。「西へ行こう!」といったら、アメリカ人は無意識のうちに賛成してしまうのです。
そういった意味で、私は、2012年1月6日のニュースを非常に面白く見ました。そのニュースはこう伝えていました。
「アメリカのオバマ大統領は、国防予算を今後10年間で約38兆円削減する、新たな国防戦略を発表した。これにより大規模な2つの地域の紛争に備える二正面作戦は放棄することになった」
ついにアメリカの時代が終わった、と感慨深く思いました。私は、アメリカは、西進して世界一周して自国に戻ってくるという勢いだったのですが、イラクからさらに西を見ると祖父の国(ヨーロッパ) が見えて拡大政策をやめたということです。ローマ帝国が拡大していった挙げ旬に縮小したように、慣性の法則で広がっていった国も、モンゴル、オスマントルコ、日本と、終わる時代が来ます。
これは、終わるだけにとどまらないかもしれません。
撤退はまた、ひとつの力です。今度はアメリカを、東へ、東へと、追いやっていくかもしれません。在日米軍再編や、自衛隊への過度の期待は、太平洋を放棄する前兆であるかもしれないのです。オバマ大統領の発表の数か月前、アップル社のスティーブ・ジョブズ氏が亡くなりました。私はオバマ大統領の大幅な国防予算の削減方針発表とジョブズ氏の死から、「ああ、アメリカの最後の花火が散った」と感じました。
アメリカと科学のイノベーションの力は、フロンティアに進むことによって生まれていました。そのフロンティア精神は、西進によって生み出されてきました。その西進をやめたということは、アメリカのイノベーションの力が終わるということです。つまり、人間が活性化するには、ある目標がなくてはいけません。例えば「拡大する」とか、そういうことがあると、そこで人間の活力が生まれて、そこにイノベーションが生まれるのです。これが「後退」し始めますと、イノベーションの力をすべて失うのではないかと考えてしまうわけです。
私はアメリカが、かつての大帝国がたどったのと同じ道をたどるのではないかと思っています。それに対して日本がどのような立場を取るかということが重要ではないでしょうか。
『「正しい」とは何か?』武田邦彦著 小学館より
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