テレビにドイツのある町の情景が映り、「家庭から出るゴミが増えて困る。リサイクルをしてゴミの量を減らしたい」、「リサイクルを進めることによって家庭からのゴミが激減した」というナレーションが流れます。テレビ画面にはそのまま捨てるゴミ箱と、その横にリサイクル の箱が並んでいます。ゴミ箱の方に捨てればゴミになるし、リサイクルの方に入れればゴミは一瞬のうちになくなり、リサイクルに回したゴミが資源になるというナレーションが流れます。
確かに、まさにゴミ箱に入れようとしているものを「リサイクル箱」に入れれば、その瞬間はゴミが減りますので、「リサイクルでゴミは減る」という話は単純でわかりやすいのです。そして、明治以来、多くの点で日本にとって先進国であり、尊敬すべき存在であったドイツの映像が映ると日本人は思考が止まり、ドイツが進めていることに抵抗できなくなります。日本人は人がいいので、
「さすが先進国のドイツ国民は環境に対して意識が高い、こぞってゴミをリサイクルしている」と素直に感心するのです。ゴミの問題のときは、なぜドイツだけが話題になるのか、などと疑うこともしません。
本著では、ドイツを無批判に手本にする代わりに、自分の頭を使ってリサイクルとゴミの関係を考えてみたいと思います。
自分が使っていたものが古くなったり、故障したりしてやがて捨てる時期になり、ゴミ箱に捨てるとします。そのゴミは自治体に引き取られて一般廃棄物として埋め立てられ焼却されます。埋め立ては環境を破壊する場合がありますし、ゴミの捨て場は満杯になり、そうかといって焼却すると大気を汚染したり二酸化炭素による地球湿暖化が怖いと指摘されます。
そこまで追いつめられて、ゴミとして捨てようとしていたもの、たとえばペットボトルをリサイクルの箱に入れることになります。ペットボトルをリサイクル箱に入れると、もちろんその分だけ「見かけのゴミ」は減るので、これで一安心、「リサイクルによってゴミを減らす」ことが達成された感じがします。
その先を少し考えます。
リサイクルの箱に入れられたペットボトルは、担当の人がある時間ごとに集めてスーパーなどの裏口で最初の分別を行います。この段階でゴミの分別が必要なのは、消費者がリサイクルの箱に入れるのはペットボトルだけではないからです。よほど分別が徹底している場合以外はペットボトルの他にいろいろなものが入ってきます。それはリサイクルに対する意識の問題ではなく、「善意」でペットボトルと思って違うボトルをわざわざリサイクルの箱まで運んでくる人も出てきてしまうのです。
ボリ塩化ビニルのボトルをペットボトルに間違えることもあるし、善意でペットボトルをボリエチレンの袋に入れて出す人もいるのです。また、私たちは生活の中でリサイクルをするのですから、忙しいときもあれば、イライラしているときもあります。人間ですから、普段は環境に気をつけていても、「エイッ! 面倒だっ!」ということもあってしかるべきです。
かくして、スーパーの裏で分別されたペットボトルはさらにきちんと分別したのち、袋や箱に詰められてトラックで一次貯蔵所(倉庫)に運ばれます。いちいち倉庫に運ばなくてもそのままリサイクルすればよいように思いますが、「もの」というのはいつも一定の量が流れているものではありません。
リサイクルする目的はペットボトルを再び石油のような原料として使おうということですから、アラブの油田からタンカーで運んでくる場合と比較してみます。
アラプから三〇万トンクラスの巨大タンカーで日本に輸送されてくる原油は一時的に貯蔵タンクに貯められます。巨大な タンカーで運んでくるものですし、輸入の許可も必要ですから、輸送には詳細な計画が立てられています。それでも、石油精製会社は輸入した原油をタンクに貯めないで直接使うほど精密な計画を立てることはできません。
この例でわかるように、社会から集められるリサイクル品は回収業者がそれほど計画的に集荷できないので、倉庫に一時的に貯蔵されることになります。
倉庫では、ペットボトルを貯蔵するのにトラックからフォークリフトに移し、棚にしまいます。 それらの管理にはパソコンを使い、そしてある程度貯蔵したら時期をみて再びフォークリフトで取りだして、トラックに積み込み、ここでようやくリサイクル工場に運びます。トラックやフォーク リフトの運転手、倉庫の管理人などが活躍し、休憩時間にはその人たちはお弁当を買って食べたりジュースを飲んだりします。輸送のガソリン、トラックやフォークリフトのタイヤ、トラック自体、倉庫の建て替え、パソコンのリース料などがこの過程で消費されます。
さて、いよいよリサイクル工場に到着したペットボトルは、そこでまぎらわしいボリ塩化ビニルや着色されたものを分け、フタをはずし、フタの下にあるリングをとりさり、ラベルをはがし、さらにペットボトルの中に汚いものや、ガム、釘などが入っていたりするものを最終的により分けます。リサイクルできないものはこの段階で産業廃棄物に回します。
一度、リサイクル箱に入れたからといってすべてがリサイクルされたわけではない原因の一つがここにあります。つまり、リサイクル箱に入れても選別の途中でリサイクルできないボトルは再び廃棄物になるのです。よく、「回収された量」という表示がされても、それは最初にリサイクル工場に持ち込まれた量であって、本当にリサイクルされてその材料が使用された量ではないことがほとんどです。
さらに先に進みましょう。
リサイクルできそうなペットボトルは工場内に持ち込まれます。そこで(水と洗剤を使って)洗浄し、(空気を送るプローアと加熱するヒークーを使って作った熱風を使って)乾燥した後、(特殊な機械と二〇〇度C以上の温度に保つヒーターを使用して大量の電気を使い)溶融して「再生ペレット」にします。これ以外にも小さな操作はたくさんあるのですが、主な工程ではこのように進みます。
そして、再生ペレットがリサイクル工場から出てきます。ペットポトルをリサイクル箱に入れてからここまで随分長い旅でしたが、これがテレビでは、「ペットボトルをリサイクル箱に入れるシーン」が映された後、「このようにまた資源になります」というナレーションとともに再生ペレットが映るのです。製造の経験が豊かな人でしたら、リサイクル箱と再生ペレットまでの長い道筋を理解することができますが、普通の人は、いかにもスーパーに置かれてあるリサイクルの箱に入れたペットボトルが何もしないうちに再生したように錯覚してしまうでしょう。
『リサイクル汚染列島』(青春出版社)武田邦彦著より
0