高崎正風は薩摩の武士の家に生れました。九歳の頃、或朝、食事の時に「御寀がまづい」といつてたべませんでした。召使は何か他に御寀をこしらへようとしますと、隣の間に居た母が來て「お前は武士の子でありながら、食物についてわがまをいひますか、昔いくさの時には殿様さへ召し上がりものがなかったこともあるといふではありませんか。どんな苦しいことでもがまんをしなければ、よい武士にはなれません。この御寀がまづければたべないがよろしい]といつて正風の膳を持去りました。正風は一度母の言をひどいと思ひましたが、遂に自分のわがままであつたことに氣がついて、何べんも母にわび、姉もまたわびてくれましたのでゆるされました。その時、これからは食事について決してわがまをいふまいと誓ひました。それから正直も風はこの誓を守るばかりでなく、どんななんぎなことでもよくがまんしたので、後には、りつばな人になりました。

『国民の修身』監修 渡辺昇一