四柱八字中で隣接する干と干が生剋・報の作用をおよぼし合うのと同様に、大運と流年の干と蔵干は四柱八字に生剋・幇の作用をおよぼすことになる。ただ大運と流年は四柱八字の外から関わることになるため、四柱八字全体に影響がおよぶことになる。この生剋・幇の作用により、弱い日干が強められたり、逆にさらに弱められたりすることになり、さまざまな事象が発生することになる。時には、もともと弱であった日干が強に転じたり、強であった日干が弱に転じたり、大きな変化が大運・流年によって引き起こされることもあるのである。
大運と流年の天干と蔵干は、四柱八字全体に生剋・幇の影響をおよぼすことになるのであるが、原則的には、天干は天干同士、蔵干は蔵干同士で生剋・幇の相互作用を発生し、また四柱八字で根がなくふらついていた天干が、大運あるいは流年の蔵干に根を持ち、有力になると見ることになる。
大運と流年の具体的な事象におよぼす影響は、日干が強ければ、大運と流年で弱められるのが望ましく、日干が弱ければ、強められるのが望ましいことになる。望ましいとは、良好な事象が発生することになるということである。
この大運と流年の作用について「滴天髄」に、次のような一句を見ることができる。

休咎係乎運。尤係乎歳。

〈休咎(きゅうきゅう:吉凶とほぼ同意)は大運に係わる。とりわけ歳(流年)に係わる。〉
既述のように、大運はその構成からして、個人的な時間の経過を示す干支であり、流年は世の中のすべての人と共有する時間の流れを示す干支である。この大運と流年の構成上の違いからして、四柱八字と大運の関わりがまず重要な視点となり、四柱八字と大運が一体となったものに流年の干支が関わることにより、日々の生活の中のさまざまな出来事が発生すると見るのが妥当であろうと考えられることになる。
大運によって身体的な状況が変化し、同時にその変化の影響を受けて、性格が変化することもあり、性格の変化は、流年の中で対人関係にも影響をおよぼし、結果的に社会活動の変化を招くことになるのである。大運は、その人自身の内的要因の変化に関わり、流年は、その内的な変化が、どのような形で社会活動に反映されるかに関わることになるのである。つまり、大運による内的要因の変化の影轡のもと、流年の作用によって、いわゆる具体的事象と言われるものが発生するのである。これが『滴天髄」に「とりわけ歳(流年)に係わる」と言われていることの真意であると考えることができるのである。
また、日干の強弱と大運と流年の関わりを通変の視点から概略的に説明するなら、印と比劫は日干を強め、食傷・財・官殺は、日干を弱めることになる。したがって、日干が弱で比劫か印の旺じる大運に巡れば日干は強化されるため、結果として、おおよそ万事順調に事が運ぶであろうと予測できることになるのである。
また、例えば、木旺の大運に巡れば、弱い日干が強められ良好を期し得るとか、逆に強い日干が弱められ、同様に良好を期し得るような四柱八字であるなら、甲寅(甲)のような、天干も蔵干も木である大運に巡るのが最善と言えるが、庚寅のように大運の天干に木を剋する庚金が巡る場合もある。こうした大運の場合、四柱八字の干の構成にもよるが、望ましくない庚金を強める戊己土、あるいは庚辛金が流年に巡ると、大運の干の庚金の作用が、具体的な事象として望ましくない形で発現することになる。つまり、大運の天干と旺じる五行が相反する場合は、その大連の10年間は、好い時期、好くない時期の波があることになるのである。
あるいは、木旺の大運に巡るのが望ましい四柱八字であるのに、申(庚)のような金旺の大運に巡る場合は、金自体と、金に剋される木の意味するところの好くない事象が発生することになるが、甲申(庚)のように天干に甲木があり、大運の旺と相反する場合は、甲木が天干にあるため、その大運中には好調な時期もあることになる。しかし、流年で甲木が剋されたりして弱められるなら、とたんに金旺であることの良くない面が具体的事象として現われることになる。
つまり、大運の天干と旺の作用の影響は、旺のほうが格段に大き いことになり、日干の強弱との関係から言うなら、日干が弱ければ強め、日干が強ければ弱める作用がある五行が旺じる大運に巡ることが何よりも望ましいことになる。
雑誌とか新聞で、「今年は良い年、来年は悪い年」といった感じで、四柱推命で毎年の運勢の変化とか、時に毎月、毎日の運勢を掲載しているのを見かけることがある。しかし、以上説明したように、四柱推命の方法論からして、人それぞれ異なっている大運を一切無視し、流年、流月だけを根拠にして、誰にでも当てはまるような情報を提供することは不可能なはずである。こうしたところにも、日本における四柱推命のゆがんだ状況をかいま見ることができるのである 。
「四柱推命学入門」小山内彰 (希林館)より
https://meiwajuku.com/nsityu4/
http://www.shihei.com/shihei/calc/