しかしながら、身につけた専門的な技術や知識を世の中の要望に沿うような形にして社会に還元できなければ宝の持ち腐れになってしまう。印の作用を役に立つものにするには、財の作用が必要となる。財の良好な作用が欠け、ただ印の作用だけ強いと、気難しい職人気質となったり、極端な場合は、ただのマニアックな変わり者といったことになってしまうこともある。また、激し過ぎるスポーツは体に悪い、と言われることがあるが、プロ、あるいは第一線で 活躍しているスポーツ選手のように限界まで肉体を鍛錬するのは、印の不良な作用に深く関わっている。
また、休日返上で働いたり、夜の目も寝ずに働けば、たいていは収入が増える。こうした、休みも十分取れず、身体的な負担が大きくなるという事象は、印を中心にして見ることになる。つまり、印は経済的なことや収入の多寡に関係するのである。財という通変の名称からわかるように、古来より経済的な問題は財独自の事象と考えられてきた。そのため、俗に言う財運を見る際、四柱八字と大運・流年に、財の干があるかな いかだけに注目していた。しかし実証的には、経済的な動向は、印がその視点の中心となり、財は印を剋する関係にあることから、間接的に関わってくることになる。
また財は行動力に関わるので、財が良好な作用を発揮するなら、その人の積極的行動、社会的活動を通して、結果的に価値を生み出すことになる。印は、技術・資格、知識、そして肉体労働的なことがもたらす金品のありようを示す。財は行動、印は技術知識とおおまかに分けることができるが、どのような職業においても印に関わる専門的な知識は必要であるし、また、その知識を活かすための行動力も求められる。
したがって、職業の適性を考える場合、財と印の作用をともに見る必要があることになる。
四柱八字が示すその人の生来の素養が職業の適性を考える基盤となり、四柱八字に財が不足するなら大運に財が巡るかどうか、印が不足するなら大運に印が巡るかどうか、そして、その財と印がどのような年齢期に巡ってくるかを見極める必要があることになる。
また、男女ともに、印には六親として母親が配されている。幼少年期の健康管理、食生活の環境等が母親にゆだねられているので、印に母親の姿が投影されているのである。印に当たる干から、母親からの影響力が大きかったかどうかを推察することができる。
しつこいようであるが、印があるからといって、四柱八字中に母親がいるわけではないのである。つまり印は、そのほとんどの場合、その人が受けた母性の影響のありようを示すのであるが、まれに印が示す事象が、母親ではなく同居する祖母であることもあるし、年が離れた姉の存在を示していることもある。そして成人し社会的に独立した後の印が示す事象は、母親ではなく、その人自身の健康状態やその管理状態を見る視点となるのである。
「四柱推命学入門」小山内彰 (希林館)より