既存の四柱推命では、四柱八字で具体的事象を見るための前段階の作業として、格局、あるいは格と言われる分類を行なわなくてはならない。格局とは、千差万別の四柱八字を一定の決まりにしたがって分類し、格局ごとに用意されている看法や事象に結びつけるための道筋をつけることを意図し、考え出された方法である。
「星平會海全書」には26種類の格局が紹介されており、他書のものも加えれば、おそらくその数は100は下らないくらいあると思われる。財官双美格、飛天禄馬格、天地徳合格といった、いかにも中国的な表現の格局の名称を見ることができる。日本ではこうした格局をそのまま採用している専門家もいるが、実証性に問題があるため、信頼のおけると思われる中国の書では、数百年前から疑問が投げかけられている。
ごく一部の真摯な四柱推命の研究家により、あまたある格局の取捨選択が行なわれ、20ほどに整理され、それなりの成功を収めてはいる。しかし、いまだ多くの問題を抱えていて、それが研究者の悩みの種になっているのである。
格局という方法では、四柱八字を大きく普通格局と特別格局に分類することになる。これを内格、外格と言っている方もいる。それをさらに分類し、分類したそれぞれにつ いて個別の視点から論議を展開し、その論議は四柱推命において大きな―つの分野を形成している。
しかし、あまりにも分類の条件が細密なため、煩雑さを伴うことになってしまい、また、分類の条件にも曖昧な点があって、実際の四柱八字に適用しようとしても、どの分類に該当するのか判別しかねるものがあるし、条件にしたがって分類しても事象が合致しないものも発生しているのが現状なのである。
特に、特別格局に分類されるものに多くの問題が残っていると言える。例えば、次のような特別格局に分類される四柱八字がある。近年であれば、昭和52年6月16日正午(真太陽時)の生まれであれば、次のような四柱八字になる。
年 丁 巳(丙)
月 丙 午(丁)
日 丙 午(丁)
時 甲 午(丁)
一目見ただけで気づかれたことと思うが、五行が極端に火に偏っている。1点時干に甲木があるものの、ほかは丙火と丁火ばかりである。「命は(五行の)調和を重んじる」というのが四柱推命の基本的な考えとされているので、このような四柱八字は実に都合が悪いのである。特別格局という分類が考え出されたのは、このような極端に偏った四柱八字があるからと言えるのである。そして、格局という分類方法ではこの問題を解決するために、五行の生剋には原則と変則があるとし、特別格局を見るときだけ、五行の生剋の見方に変更を加えているのである。
しかし、この方法ですべての問題を解決するならいいのであるが、実際はそうではないし、そもそも四柱推命の理論的基盤である陰陽五行論の、生と剋の見方を変更するようなことは、いくら困っても絶対にしてはならないことであると考える。
特別格局には問題があると感じていて、この問題を解決する方法はないものかと、10数年ほど前から思案していた。特別格局に分類される四柱八字であっても、五行の生剋は基本原則で見る手だてはないものだろうかと……。そして、前著「命運を推す」では、「補干の方法」としてその解決策を提起した。しかし、その後、インターネットを通して、数多くの実際の四柱八字に接する機会を得、現在は「補干の方法」を改定して、「旺の逆転」という方法を採っている。
この「旺の逆転」という方法は、実証的経験の末たどり着いた独自の看法である。ただし、その方法の基本的な部分は、古来よりの格局の分類法を元にしている。格局の方法論をひと通り理解した上で、実際の今生活している人の四柱八字と事象を照らし合わせながら、理論と実証の整合性を検証し、格局の構成をいったんバラバラに解体して、その不合理な部分を排除し再構成したのが、「旺の逆転」という方法なのである。
「旺の逆転」の方法によれば、すべての四柱八字を陰陽五行論の原則に則った生剋のもとで見ることが可能となり、古来より延々と受け継がれてきた格局という分類法は一切不要となる。また従来の格局の分類の条件は、その説明だけで1冊、2冊の本になるくらいの分量があるが、「旺の逆転」の方法では、無駄な部分を排除したため、格段に少ない量で、その全貌を理解することができることになった。
「旺の逆転」の方法とは、文字通り、干支暦によって出した四柱八字の示す旺じる五行を逆転させる見方である。格局のような、ただ単なる分類方法ではなく、四柱八字から具体的な事象を推すことに直結させた実践的看法と言える。古来よりの格局の考え方を下敷きにしてはいるが、その体裁は格局とは似ても似つかないものとなっている。
以下説明するように、「旺の逆転」の方法は、年月の天干の通変月支の蔵干が示す旺じる五行を見て行なう作業となる。年月の天干と月支の蔵干の示す旺じる五行が、日干とどのような生剋・幇の関係にあるか、そして印と官殺と比劫のあり方がどうであるかが、その視点となる。この印と官殺と比劫を視点として取り入れている部分が、格局の考え方を踏襲している―つの部分となっている。
「旺の逆転」の方法は、従来の格局の分類方法をご存じの方には、風変わりで、かなり奇妙に感じられるのではないかと思われるが、四柱八字を具体的事象に照らし合わせる段階にいたれば、方法論としての正しさをご理解いただけることと思う。
さて、この「旺の逆転」の方法を四柱八字に適応するために必要な二つの視点を、以下説明していくことにする。
「四柱推命学入門」小山内彰 (希林館)より