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【映画を作らせない】はやぶさ2が持ち帰った5.4グラム ― 世界が日本にサンプルリターンを託す理由

【映画を作らせない】はやぶさ2が持ち帰った5.4グラム ― 世界が日本にサンプルリターンを託す理由

写真:はやぶさ2の模型(出典:YouTube動画より)

映画を作らせない
はやぶさ2が持ち帰った5.4グラム
― 世界が日本にサンプルリターンを託す理由 ―
2026年11月7日|記録|宇宙と日本
2020年12月6日の明け方、オーストラリアの砂漠。直径およそ40センチのカプセルを最初に見つけたのは、砂を取る装置を作った技術者、澤田弘崇さんでした。6年をかけ、小惑星リュウグウから帰ってきた「はやぶさ2」のカプセルです。
先日、2026年10月20日には、火星の衛星フォボスから砂を持ち帰る探査機「MMX」が種子島から旅立ちました。その砂を取る装置を担当しているのも澤田さんです。今回紹介する動画は、はやぶさ2がどうやって砂を持ち帰ったのかを、関わった人たちの言葉でたどった物語です。見どころを、記録で確かめた事実とともにまとめます。

1.初号機の借り
物語は一つの失敗から始まります。2005年、初代「はやぶさ」は小惑星イトカワに降り立ちましたが、砂を取るための弾丸が撃たれなかった可能性が高いと発表されました。2010年、満身創痍で帰ってきたカプセルに入っていたのは、目に見えないほどの微粒子だけでした。
探査機を作ったNECの技術者、大島武さんは、弾丸を撃てなかったことが13年間、心のどこかに引っかかっていたと語っています。
はやぶさ2の砂を取る装置(サンプラー)を任された澤田さんは、初代と同じ悔しさを二度と味わわないための工夫を重ねました。弾丸が出なくても砂を引っかけて持ち上げる仕掛け。三回分の砂を分けて入れる三つの部屋。そして、砂から出るガスまで漏らさないよう、容器の蓋を金属だけで閉じることにしました。初代ではゴムの輪(Oリング)で閉じていましたが、ゴムはわずかに気体を通してしまうからです。

【写真2:装置の断面模型】
装置の内部を切って見せた断面模型(出典:本記事で紹介したYouTube動画より)
2.降りる場所が、どこにもない
2018年6月27日、はやぶさ2はリュウグウに着きました。ところが近づいて見えた表面は、一面の岩でした。チームは直径100メートルほどの平らな場所があると考えていましたが、20メートル、30メートルの平らな場所すら見つかりません。プロジェクトの責任者、津田雄一さんは「神様はあんまり優しくないな」と漏らしています。
この夏、チームは大切な仲間も失いました。弾丸を撃つ仕組みの基礎の実験を進めてきた研究者、岡本千里さんが亡くなったのです。澤田さんは、岡本さんの思いと一緒に晴れ舞台を見届けたいと書いています。
3.ひっくり返った小さな着陸機
2018年10月3日、はやぶさ2はドイツとフランスが作った小さな着陸機「マスコット」をリュウグウに下ろしました。電池の持ち時間は16時間ほど。ところが着地後、マスコットは仰向けにひっくり返っていました。中の重りを振って体を起こし、観測を再開。持ち時間は分離から17時間を超えました。ドイツ側の研究者は、NASAなら取らないリスクを日本は取る、と語っています。
4.直径6メートルの円
着地の練習では、表面が黒すぎて距離を測るレーザーが働かず、探査機は高度約600メートルで自分の判断で引き返しました。着地は年明けに延期されます。年末、レーザーの使い方を変える案がNECに出され、技術者たちは年末年始を返上して計算を重ねました。同じころ、澤田さんたちは予備の装置で本物の弾丸を撃つ試験に挑みます。砕けた石のかけらが周りの石を次々に砕き、たくさんの砂を舞い上げました。この星でも取れる、という答えでした。
狙うのは、岩と岩の間に残った半径3メートルの小さな円です。津田さんは「甲子園球場に降りようと思っていたのに、マウンドを狙わないといけなくなった」とたとえています。
2019年2月22日、探査機の時計で午前7時29分、はやぶさ2はリュウグウに触れました。その知らせが地球に届いたのは約19分後。続いて届いたデータには、弾丸が撃たれた記録がありました。初代から14年、撃てなかった弾丸をついに撃ったのです。狙った円の中心から約1メートルの着地でした。大島さんは突然泣き出したそうです。津田さんは初代を率いた川口淳一郎さんに「初号機の借りは返しました」と伝えています。
5.もう一度、賭ける
2019年4月5日、はやぶさ2は銅の塊を撃ち込んで人工のクレーターを作りました。地下の砂を地表に出すためです。そのそばに、もう一度降りるのか。探査機にはすでに一回目の砂が入っています。二回目で探査機を失えば、その砂も地球に届きません。それでもチームは、まだ人類の誰も手にしたことのない地下の砂を取りに行くと決めました。
チームには合言葉がありました。「映画を作らせない」。映画になるような危機を起こさないために、準備をやりすぎるほど重ねるのです。2019年7月11日の二回目の着地は、狙った点から約60センチ。津田さんは「きちんとできている技術はドラマにはならない」と語りました。
6.砂漠のカプセル、そして蓋を開ける
2020年、新型コロナが世界を覆い、カプセルを回収できるのかさえ分からなくなりました。それでも回収班はオーストラリアへ渡り、2週間の隔離を経て砂漠の町ウーメラに入ります。12月6日午前2時半ごろ(日本時間)、カプセルは大気圏に突入しました。表面はおよそ3,000度、中は80度以下に保たなければなりません。夜明けの砂漠でカプセルを見つけ、中のガスを調べると、地球の空気とは違うことを示すデータが出ました。ハンマーで叩いて作り上げた金属の蓋は、漏れていなかったのです。
相模原に運ばれた容器では、開ける前から、蓋と容器のすき間に約1ミリの黒い粒が二つ見つかりました。後の分析で、リュウグウの粒子と確かめられています。部屋を開けた澤田さんの目に入ったのは、想像していた粉ではなく、ゴロゴロとした数ミリの粒でした。持ち帰った砂は約5.4グラム。成功の基準とした0.1グラムを大きく上回りました。
2014年の打ち上げ前、澤田さんは自分の文章をこう結んでいました。「2020年、この記事を笑顔で読み返せるといいですね」。その2020年が来たのです。
7.世界は、行動で答えた
日本は、はやぶさ2の砂を世界の研究者に配りました。2021年11月には、その一部をNASAに渡しています。そして2024年8月22日、今度はNASAが、小惑星ベンヌから持ち帰った砂の一部(0.663グラム)を相模原のJAXAに引き渡しました。NASAのカプセルの砂を保管する方法は、はやぶさ2での経験をもとに組み立てられています。
日本だから任せる、とどこかに書いてあるわけではありません。けれども世界は、行動で答えていました。日本のカプセルを空から計測しに来て、日本の施設を手本にし、自分たちの砂を日本に預け、自分たちの装置を日本の探査機に載せたのです。
8.次は、火星の月へ
MMXが目指す砂の量は10グラム以上。弾丸を撃つ方式ではとても届かないため、地面に筒(コアラー)を突き刺して砂ごと抜き取る方式を選びました。フォボスは重力が小さく、筒を押せば探査機が反動で浮いてしまう。降りられる回数も限られています。火星の衛星から砂を持ち帰った国は、まだありません。
プロジェクトマネージャの川勝康弘さんは「打ち上げはゴールではなくスタート。ここからが本番だ」と語っています。MMXは2031年7月、オーストラリアの空に帰ってくる予定です。
危ない場所へ挑み、危機を起こさず、必ず持ち帰る。世界が日本に託しているのは、その力です。そしてその力を作ってきたのは、悔しさを抱え、ハンマーを振り、仲間の思いを背負って晴れ舞台を見届けた一人ひとりでした。ぜひ動画で、その物語をご覧ください。
事実確認の注
・記録で確かめられたこと:リュウグウ到着(2018年6月27日)、練習降下の中止(高度約600m)、マスコット分離(10月3日)、一回目の着地(2019年2月22日7時29分・機上時刻)、衝突装置(4月5日)、二回目の着地(7月11日)、カプセルの火球確認(2020年12月6日2時29分)、蓋のすき間の2粒、試料約5.4グラム(成功基準0.1グラム)、金属の蓋の採用理由、ベンヌ試料の引き渡し(2024年8月22日、0.663グラム)、MMXの打ち上げ(2026年10月20日)と帰還予定(2031年7月)、各氏の名前と所属。JAXA、NEC、九州大学などの公表資料と報道で確かめました。
・動画と記録の細かな違い:二回目の着地の誤差は、動画では59.8センチ、JAXAの説明資料をもとにした報道では約60センチです。また動画は、狙える場所が直径100メートルから20メートルになったことを「広さにすれば2分の1」と言っていますが、面積では25分の1になります。
・記録からは確かめなかったこと:会議の時間や人数、試験で叩いた回数、関係者の心の声など。動画の末尾にも「記録や証言をもとに一部をストーリーとして組み立てている」と断りがあります。

出典
元の動画:https://youtu.be/o0Oropu9rz0
JAXA宇宙科学研究所 はやぶさ2の歩み(運用の年表):ISAS資料
はやぶさ2のミッションと運用来歴:日本航空宇宙工業会 会報
NEC 一回目の着地を支えた技術者インタビュー:NEC
二回目の着地の精度:MONOist
金属の蓋(メタルシール)を選んだ理由:MONOist(澤田氏の解説)
蓋のすき間の2粒子:九州大学ほか プレスリリース
試料5.4グラムとプロジェクトの総括:マイナビニュース
ベンヌ試料の引き渡し:JAXA説明資料、JAXA地球外物質研究グループ
MMXの打ち上げ:共同通信(熊本日日新聞)、川勝氏の発言

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牧正人史先生が昭和三十三年に発見された姓名科学の体系を、デジタルの形で遺す仕事を続けています。
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