◎ 西洋文明の悪いところを学び続ける日本 ◎
人生は楽しい方がよい、ということは誰でも思っている。それでは「どうしたら楽しい生活を送れる」のだろうか?すぐに思い浮かぶのは「何にもしないで寝ていれば天井からお金が振ってくる」ということだろう。しかし、実はそれは人生を一番つまらなくさせるというのだから人生というのは不思議なものだ。
人生を楽しくする方法は以下の3つである。
(1) 忙しい
(2) その割にはお金が入らない
(3) 不満や言い争いが少ない
まったく意外と思うかもしれないが、人間は忙しいのが一番で、暇な状態が最も苦痛である。忙しいのも、できれば2割は「つきあい」など対人的に忙しく、8割は「もの」を相手にしているので忙しい、というのが一番よいようだ。対人関係が中心になると、こじれてきて疲れるし、またものだけを相手にしていると寂しくなる。
そして、働いてもあまりお金が入らないのがよい。働いてお金が入ると、働きたくなくなる。働かないと暇になり、本人も気づかないうちに不満が溜まっていく。しかも困ったことに不満が溜まる理由が自分でもよくわからない。まさか、「同じように働いて、入ってくるお金が少ない方がよい」などと考えもしないからだ。しかし、「お金は多い方がよい」と考えるようになったのは、ほんの少し前からのことで、それまでの日本人はこう考
えていた。
幕末、日本にやって来たスイスの遣日使節団長アンベールが、自国の職人の回顧と共に語った言葉。
「(日本では)若干の大商人だけが、莫大な富を持っている<せに更に金儲けに夢中になっているのを除けば、概して人々は生活のできる範囲で働き、生活を楽しむためにのみ生きているのを見た」
ここまではすでに紹介したが、その先の言葉が素晴らしい。
「労働それ自体が最も純粋で激しい情熱をかきたてる楽しみとなっていた。そこで、職人は自分の作るものに情熱を傾けた。彼らには、その仕事にどれくらいの日数を要したかは問題ではない。彼らがその作品に商品価値を与えたときではなく、かなり満足できる程度に完成したときに、やっとその仕事から解放されるのである」
そして家族と日々の労働は次のようなものであった。(イライザ・シッドモアの旅行記から。1884年からしばしば日本を訪れる)
「日の輝く春の朝、大人の男も女も、子供らまで加わって海藻を採集し浜砂に拡げて干す。漁師のむすめ達が脛(はぎ)をまるだしにして浜辺を歩き回る。藍色の木綿の布切れをあねさんかぶりにし、背中に籠を背負っている。子供らは泡立つ白波に立ち向かったりして戯れ、幼児は楽しそうに砂のうえで転げ回る。婦人達は海草の山を選別したり、ぬれねずみになったご亭主に時々、ご馳走を差し入れる。あたたかいお茶とご飯。そしておかずは細かにむしった魚である。こうした光景総てが陽気で美しい。だれもかれもこころ浮き浮きと嬉しそうだ」
これらの描写が産業革命後のイギリスを描写した次のエンゲルスの書とあまりにも違うことに驚かざるを得ない。
「貧民には湿っぽい住宅が、即ち床から水があがってくる地下室が、天井から雨水が漏ってくる屋根裏部屋が与えられる。貧民は粗悪で、ぼろぼろになった、あるいはなりかけの衣服と、粗悪で混ぜものをした、消化の悪い食料が与えられる。貧民は野獣のように追い立てられ、休息もやすらかな人生の楽しみも与えられない。貧民は性的享楽と飲酒の他には、いっさいの楽しみを奪われ、そのかわり毎日あらゆる精神力と体力とが完全に疲労し
てしまうまで酷使される」
私たちは日本という格別の国に産まれたにも関わらず、すっかり西洋文明の悪いところを選び取り、良いところを捨てて生活をしている。そしてそれに気づかず苦しんでいるである。
『武田邦彦の科学的人生論』飯塚書店刊より R081011

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