ピアノを続けられるかどうかは、案外、最初の練習で決まってしまうのではないかと思う。
音階を上がって、下りて、また上がって。指を動かすための練習は、たしかに必要なものだ。けれど、それだけが延々と続けば、子どもはもちろん、大人でも気持ちが萎えてくる。
「ピアノを習っていたけれど、途中でやめてしまった」
そう話す方は、決して少なくない。
作曲家・三原あみが、自身のピアノ曲を集めたページを公開した。その出発点は、こういう言葉である。
けれど、そのために「ハノン」などの教本を用意して練習するのは、
ちょっと大変かもしれません。
ハノンは、ピアノを習った方なら誰もが知る運指の教本だ。効果は疑いようがない。ただ、あの無機質な音型を毎日繰り返すことに、どれだけの人が耐えられるだろうか。
私自身、ピアノは弾かない。それでも、この「ちょっと大変かもしれません」という一言には、思わず頷いてしまった。正論ではなく、実感から出た言葉だからだろう。
ポイントを重点的に練習するという方法です。
曲名を並べてみると、その意図がよく分かる。
ブルブル冷たい冷蔵庫
もうすぐ焼けるよパンケーキ
子犬が吠えるよワンワンワン
どんぐりコロコロ
ヒラヒラちょうちょ
題名がそのまま歌になっている。口ずさみながら弾けるようにできている。
「カニカニ歩くよ」であれば、指は横に移動する。「ブルブル冷たい冷蔵庫」なら、細かく震えるような動きになるのだろう。言葉のリズムと指の動きが結びついているから、覚えるのではなく、身体が先に動く。
これは、音楽の理屈というより、教える現場から生まれた知恵ではないかと感じる。
三十五曲には、それぞれ番号が振られている。この番号は整理のためのものではない。運指の難易度の順序である。
No.2 カミナリきたぞ
No.4 虹
……
No.41 朝日がのぼるよ
No.1から順に進んでいけば、無理なく指が動くようになってゆく、という設計だ。
自分がいまどのあたりにいるのか。次は何を練習すればよいのか。番号があるだけで、それが分かる。独習する人にとって、これは意外に大きなことだと思う。
子どもがピアノを嫌いになる理由の多くは、「面白くない」ことにあるのではないだろうか。
歌いながら弾ける曲であれば、練習が遊びに近づく。題名を見て笑い、口ずさんでいるうちに指が動くようになる。ご家庭で一緒に歌ってあげることもできる。
動画はすべて公開されているので、まずは親子でご覧になってみてはいかがだろうか。
「この年齢から始めても」と思われる方にこそ、お勧めしたい。
一曲が短い。歌える。番号を追えばよい。この三つが揃っていれば、独りでも続けられる。教本を開いて途方に暮れることがない。
三原あみ自身、こう書いている。
お子さんはもちろん、大人になってから始められた方にも。
年齢を限定していないところに、この方の姿勢が表れている。
動画を見て「弾いてみたい」と思われた方もあるだろう。楽譜については、個別に相談を受け付けているとのことである。
またピアノ教室を主宰されている方には、生徒さんに合わせた練習曲の作曲も承っているという。苦手な運指があれば、そこを重点的に鍛える一曲を、という話だ。
技術を教えることと、続けたいと思わせることは、別のことである。
三十五曲を眺めていて感じたのは、この方が後者を大切にしてきたということだ。ハノンを否定しているのではない。ハノンに向かう前に、まず音楽を楽しんでほしい、ということなのだろうと直感している。
ピアノに触れてみたい方、お子さんに習わせたい方、そして教える立場の方。それぞれに得るものがあるページではないかと思う。


