連載:至誠の覚醒 第三十話 東大生を解雇した
塾が拡大するにつれ、教師の採用も必要になった。
面接にやってくる志望者と向き合うのも、私の仕事になっていた。二十歳そこらが、採用面接の担当をしていた。今思えば、相当に思い上がった話だ。しかしその経験は、後に社会人になったとき、面接を受ける側として、ずいぶんと役に立った。場慣れというのは、どこで積んだかわからないものだ。
ある日、東大の卒業生が面接に来た。
優秀なのは、見てわかった。話も整っていた。経歴に文句のつけようはなかった。しかし私は、何か引っかかるものを感じた。言葉にするのが難しいのだが、人間が不遜に見えた。自分のことを、よくわかっている人間の傲慢さ、とでも言うのだろうか。
何回か授業を持ってもらった。
子どもたちの反応を見た。授業の内容を確認した。技術的には問題なかった。しかしやはり、何かが合わなかった。
私は解雇した。
東大卒業生を、二十歳そこらの学生教師が解雇した。今から考えると、とんでもない話だ。しかし当時は、迷わなかった。塾には塾の空気があった。その空気に合わない人間を置いておくことは、子どもたちのためにならないと思った。
今思えば、名前や生年からして、相性が合わなかったのだと思う。姓名科学を知った今なら、面接の前からわかったかもしれない。しかし当時の私には、そんな知識はなかった。ただ、感覚で判断した。
その感覚は、間違っていなかったと今も思っている。
あの頃の経験が、私の中に積み重なっていった。面接する側も、される側も、どちらも経験した。人を見る目は、そうやって育つものだと思う。教室の外でも、塾は私を育てていた。
(つづく)R080408
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