2. 西洋の「嘘をつく技術」と「文明開化」の真実
一方、西洋文明は古来、軍事に長けていました。他者を倒して序列を整えていくことに関しては、西洋文明には優れたものがあります。 『省諐録(せいけんろく)』という著書で知られる明治維新期の兵学者・佐久間象山も指摘していますが、西洋は自分一人に利益がある状態を最善とします。その状態に持っていくための“嘘”をつく技術にも優れています。 これまで筆者は、明治維新期に使われた「文明開化」という言葉をずっと不思議に思ってきました。福沢諭吉が『西洋事情』という著書で初めて使ったとされていますが、彼ほどの大人物がなぜ「開化」と表現したのか……。 幕末、西洋列強が日本に押し寄せました。植民地となることを防ぐために、日本は西洋の技術を熱心に取り入れ、誤解を恐れずに言えば「残虐行為」をも行えるようになりました。 もちろん、それによって日本は「日清戦争」「日露戦争」に勝利するのですが、これによって先にお話しした日本の伝統が破壊された、すなわち「日本文明の衰退」を招いたのではないか……。 当時の世界情勢において、そうせざるを得なかった先人たちの努力には敬意を表しますが、西洋文化を取り入れたことで日本人がより幸福になったかどうかは、はなはだ疑問です。 「文明開化」というのは、西洋文明を輸入することで「日本がこれから開化する(文明化する)」という意味です。福沢諭吉など当時の教養人には、確かにそう見えたのかもしれません。 しかしこれは、西洋の「嘘をつく技術」によって惑わされていたとも考えられます。 西洋は哲学や法学、理学といったように物事を体系化することが得意で、何事においても「西洋のほうが優れている」「西洋のほうが先である」と思い込ませることに長けています。 たとえば、17世紀フランスの哲学者ルネ・デカルトに「我思う、故に我あり」という有名な言葉があります。存在という概念の自明さを説いたものですが、これなどはすでに11世紀のアラビアで、イブン・スィーナーをはじめとするイスラム哲学者が何人も同じことを説いていました。 また、18〜19世紀イギリスの経済学者トマス・ロバート・マルサスは著書『人口論』で、「人口は制限されなければ幾何級数(等比数列)的に増加するが、生活資源は算術級数的(等差数列的)にしか増加しない。よって生活資源は必ず不足する」と述べており、同書は人口論の古典と言われています。 これも、18世紀清朝の官僚、洪亮吉(こうりょうきつ)のほうが先です。同様の人口論を主張した彼の著書『治平篇』は、マルサスの『人口論』より5年ほど早く完成していました。 イブン・スィーナーも洪亮吉も、西洋人ではないから西洋の体系から外されているのです。
『かけがえのない国 誇り高き日本文明』武田邦彦著 MdN出版(R05年)より R080309
