「国連家族農業の10年」
日本政府は「国内の農産物は価格的に輸入品に敵わないので、(対抗するために)農地の大規模化が必要」という論調ですが、実は国際社会はまったく逆の方向を目指しています。
2017年の国連総会では、2019~2028年を「国連・家族農業の10年(THE UN DECADE OF FAMILY FARMING)(*1)」とすることが全会一致で可決されました。家族農業とは、家族労働が中心の農業を指します。世界中に約5億7000万ある農場のうち5億以上を占めており、食料の80%以上(価格ベース、2016年)を供給しています。
まず資源効率において、家族農業は大規模農業よりもはるかに優れています。家族農業は世界の農業資源(土地、水、化石燃料)の25%を利用するだけで世界の食料の80%以上を
を生産することができるのです 。一方の大規模農業は 、農業資源のを消費しながら20
%以下の食料しか提供していません。しかも生産された食料の3分の1が、長距離長期間
に及ぶ輸送流通過程で有効利用されずに廃菓されています。
また大規模農業は、土地の生産性も格段に低いのです。日本では農地1 ヘクタールが約 10人を養えるのに対して、大規模農業が主体となっているアメリカでは0.9人、オーストラリアに至ってはたったの0.1人しか増えていません(小規模家族農業ネットワークジャパン『よくわかる国連「家族農業の10年」と「小農の権利宣言」』)。
大規模農業は小麦などの単一作物が中心ですが、それだけ干ばつ、洪水、ハリケーン、害虫、病害などによって大規模な被害を受けるリスクが高まります。しかも近年では国際的な自由市場が広がって、少数の食料輸出国が多数の輸入国に供給していますから、特定の輸出国が被害を受けると国際市場価格がすぐに跳ね上がります。
さらにアメリカやカナダでは、大量生産での生産性向上のためにグリホサートという農薬が使われています。これは発がん性を疑われており、アメリカでも盛んに使用禁止を求める訴訟が起こされている危険性の高い農薬です。我が国の学校給食パンでは輸入小麦を使用している製品中12製品でグリホサートが検出されましたが、国産小麦を使った製品では検出されませんでした。
確かに、平常時の価格だけを見れば国際的な大規模農業の方がはるかに安く農作物を提供することができるでしょう。これは本来なら環境保護や食品安全性、供給の安定性確保などにかかるコストを除外しているからです。国際社会の一員として「大規模農業にはこれ以上、頼れない」と考えるのは、当然の判断と言えるでしょう。

『Renaisance Vol.13』ダイレクト出版 「家族農業」こそ日本再生の道 伊勢雅臣氏より
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