単純ではない海水準
岸辺近くの海底に一本の長い棒を刺し、棒に振られた目盛を読んで、潮の千満をならした平均値にしたものが、その場所の海水準です。海水準の時間変化をグラフ化すれば、先ほどの「注目点」について判断できそうですけれど、そこに四つほど「ひねり」が入る。以下、海水準の測定に使う道具だてを、潮位計と呼びましょう。
第一に、潮位計のそばで開発が進めば、ビルや道路、滑走路など重量物が地面に乗って地盤が沈む結果、見かけの海水面は上がってくる。地下水をどんどん汲み上げても地盤は沈みます。

そのせいでたとえば大阪港の海水面は、戦前の発展期と戦後の高度成長期に、合計二・六メートル(二六〇〇ミリメートル)も上がりました(『神話』5章 )。★

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二つ目が地殻変動です。地球の表面をつくる十数枚のプレート(板状の岩石層)は水平方向に動き、プレートどうしが接する場所では隆起や沈下が進むため、見かけの海水準が上下動する。また、大地震は岩盤を一瞬で昇降させます。たとえば岩手県大船渡市の海水準は、年に二~三ミリメートルずつ上昇中だったところ、二〇一一年三月の東日本大地震で八〇センチ(八〇〇ミリ)メートルも上がったあと、ゆっくりと復帰中です。
第三に、氷河期の置き土産があります。約一万年前に終わった最後の氷河期には、北極圏を厚い氷が覆い、岩盤を押し下げていました。その「おもし」がとれたあと岩盤はじわじわ隆起中だから、スカンジナビア諸国やカナダの沿岸は、いまも海水面が下がり続けています。
第四が、前章にご紹介したAMO(大西洋数十年規模振動 )です。実際、大西洋沿岸にある観測点の一部では、海水準の全体的なトレンド中に、水温の上昇期と下降期(ウソ4)に見合うかすかなアップダウンが読み取れます。
以上のような雑音がない場所の海水準はどうなのか……その結果が、二〇一四年に論文発表されました。以下でざっとご紹介しましょう。本書の全体に深く関係する話です。

気候変動・脱炭素」14のウソ』渡辺正著(丸善出版株式会社)