上司と部下の意見が違うのは、当たり前だと言いました。最近では、年下の上司も珍しくないでしょうが、どちらにせよ、「世代」が違います。
「ナポレオンは時代の子」だと申しましたが、ナポレオンすら時代に影響される のですから、私たちがそうならないはずがありません。「世代」というのは、時代が作り出しているのです。こ の「世代」―――当然、異なれば「正しさ」の中身は変わってきます。一方で、「世相」があります。その時代の流れがある、ということです。大がかりなアンケート調査で意識を調べると、世の中の意識が、時代に よって移り変わっていくさまがよくわかります。でもこれは、よく考えるとおかしいのです。
あなたは自分の考えが、若い時分といまで、大きく変わりましたか?
ちょっとした変化はあるかもしれませんが、ある時点で、実は固まってしまう のです。
ある面白い調査結果をご覧にいれましょう。
このグラフは、1973年から1993年の間に行なわれた大規模なアンケート調査の結果を、私なりに 整理し直したものです。
横軸は年齢で、縦軸は質問に対する結果な のですが、そのお題は、「婚前交渉を認めるか、認めないか」。婚前交渉ははたして「正しい」のかどうか、聞いているのです。
1973を見てみましょう 。
例えば30人のうち、40%人が婚前交渉にNoと答えています。その10年後、1983年に調査をしてみると、グラフの線が全体的に右に寄っています。これは、どういうことかと言いますと、「婚前交渉を認めない」という 人が減ってきているということです。さらに10年後の1993年になると、社会は変化し、多くの人が「婚前交渉ぐらいいいじゃないか」と思い始めたということがここから見えてきます。
40歳の人を例に取って、具体的に見てみましょう。
1973年、40歳の人は、半数以上が婚前交渉にNoと答えています。それが10年経つと、およそ40%に下がっています。さらに10年経った1993年には20%となりました。大まかに言えば、10年経つごとに、20%ずつ割合を減らしていることになります。これは急激な世の中の変化、と 言っていいですよね?
これが通常の分析です。でも、数字のトリックに気づくと、ここから別のも のが見えてくるんです。
1973年時点で30歳の人は、40%の人が婚前交渉にNoと答えていますが、この人たち、10年後の1983年には40歳になっています。それでは、と40歳のところの数字を見ると、なんと、40%なのです。
まったく変わっていませんよね? では、1993年の数字を見てみましょう。
10年経ったから彼らは50歳になっています。見るとそう、またまた、まったく数字が同じなんです!
これは、どういうことでしょうか。
一般的に「世の中が変わった」と言う場合、一人ひとりの心の中が変わったわけではないのです。自分のことを考えてみても、そうですよね?
確かに、表面上の数字は推移しますが、これは、その年代の人たちが「入れ替わった」ということなのです。
そう、世の中は、変わっていなかったのです。
『「正しい」とは何か?』武田邦彦著 小学館より
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