実際はどうでしょうか?
経済産業省「エネルギー白書」によれば、アメリカの家庭用電気料金は、キロワット当たり、11.6セント。一方、日本はその倍の22.8セント。同じ原発大国のフランスが15.9セントですから、いかに日本が突出して高いか、おわかりでしょう。
そうなのです。原発を稼働すれば電気料金が安くなる、と言いながら、実は世界一高い水準の電気料金を、私たちは払い続けているのです。詐欺みたいな話ですよね?
電気料金をもっとくわしく見ていくと、実は、もっとも技術的に難しいのが「送電」なんです。電気を送っているうちに、ロスしてしまうのです。だから、遠くに送れば送るほど、理屈では、電気料金は高くなります。僻地や離島に電気を送るのは大変だなんてよく言いますが、それはそういうことなのです。日本は小さな島国ですが、アメリカは広大な大陸です。アメリカのほうが当然、送電コストがかかりますから、日本よりも電気料金が高くなってもおかしくない。しかし実際は、日本の約半分です。
日本の電気料金は、国際的に見ても非常に高いのですが、「火力より、原子力のほうが、コストが安い」という電力会社の言い分はウソではありません。実際に安いのです。でもなぜ安いのかというと、原子力の電気だけに国が税金を出しているからなのです。
具体的な数字を挙げると、原子力発電売上高5兆円のうちの10%、約5000億円を税金で補填します。5000億円の中身は、開発費とか、地元対策費とか、名目は変わりますが、総額にすると、5000億円になるのです。それに加えて政治家、マスコミ宜伝費、学者への研究費などの対策費が電力会社から別勘定で1000億円ほど出ています。
だから常に売上高の12%の利益が約束されているのです。言い方を換えると、そのぶんだけ安く電気を作れるということです。この12%の利益を除いてしまうと、実は、火力発電と原子12%の利益のおおもとは税金ですから、私たちのお金は力発電では、コストが変わりません。
結局、電気料金として払うか、税金として払うか、のどちらかに過ぎず、取られていたことに変わりはなかったというわけです。これで「安い」と言われても、納得いきません。
電力会社からみれば、原子力発電はいいこと尽くめなのです。お金をもらえるだけではありません。今度の原発事故でも明らかになりましたが、廃棄物や事故処理など本来、会社がすべきことなのに、「しなくていい」と免除されていることがたくさんあるのです。
例えば、火力発電所で事故が起こったとします。周囲に被害を与えたら、当然、電力会社の責任で処理します。
日常的に出る石炭の瓦礫や排気ガスの処理ももちろん電力会社の負担です。多くの会社が自分の工場を運転するのに必要なことはすべてその工場でやるのです。
ところが、原発はそうではありません。原発で出た廃棄物の処理は、国が行ないます。再処理施設を作っているのは国ですよね?いざ事故になっても、必死に水をかけたのは、自衛隊であり、消防でした。「水をかける」という事故に備えた装置を、電力会社は用意していませんでした。住民避難も主導しませんでしたし、何から何まで国任せです。
電力会社は、国からお金をもらいながら原子力発電を行なっていただけで、放射性廃棄物という核のゴミ処理も、事故後の処理も、知らぬ存ぜぬを貫き通している、というわけです。
こういうことになっているのですから、電力会社が原発に主体的であるはずがないのです。責任を取らなくていいのですから。耐震問題も、津波対策の不備も、すべてがここから来ているというわけです。
福島原発事故後、多くの人が「電力会社の対応は人ごとみたいだ」とか「ずいぶん、自身に対して甘いな」と感じたと思いますが、それは当然です。地震で大災害を受けても「想定外」とさえ言えば、あとは国の責任になるからです。電力会社はただ、原発を作って、運転するだけ。だからコストが安くなる、というわけです。
私はかつて、内閣府の原子力安全委員会専門委員をやっていましたから、そのあたりの数字がよくわかりますが、仮に電力会社が、津波対策や事故後の処理、廃棄物の処理まで手がけるとしたら、そのコストは、非常に高いものになるのです。対策にお金をかけず、しかも国が税金で意図的に安くする。こんなカラクリがあったわけです。
原発の存在は、電気料金を引き下げる要因には決してなっていない。これが事実です。しかし原発は、国が責任をもってお金を投じますから、それに関わる会社は、収益を計算できます。
経済界が「原発推進」にまわることは、当然と言えますね。
「原発の電気は安いから、原発を減らすと電気代が高くなる」というのは、「トリックによって作られた正しさ」です。しかし実は、流布している正しさの多くは、「トリックで製造される」と言ってよいのです。ではどうやって製造されるのでしょうか。その構造を「電気代」を例にとってもう少し話を進めたいと思います。
『「正しい」とは何か?』武田邦彦著 小学館より
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