「杉並病」という「環境病」が知られています。ここでいう「環境病」とは「ゴミの処理やリサイクル、循環型社会を実現することによって、新たに生じる疾病など」と定義しています。昔のように、少量のゴミを集めて燃やしている間は「環境病」などは起こりませんが、大量のゴミを高度に処理したり、リサイクルすると毒物が発生したり、蓄積したりするので、その結果、思いがけない病気になる例です。
杉並病の原因は、都の調査委員会の発表によると、廃棄物の中間貯蔵所やその周辺から発生した硫化水素とナフクレンとみられています。さらに硫化水素の発生した理由は、廃棄物の中間処理施設の貯槽の容積が大きかったために、滞留時間が長く化学反応が進んだと推定されています。
ことの次第はおおよそ判明しましたが、深い考察は行われていません。杉並病が教えてくれることは二つあります。第一に、病気になった人は苦しみましたが、最初はみんなあまり同情しませんでした。個人的な疾病ではないか、特別に過敏な人ではないかという判断から、中には「大したことがないのに騒いでいるのではないか」という意地悪な見方もあったのです。
水俣病やその他の大きな公害のときもそうでしたが、被害者は自分の苦しみを訴えることすらできず、被害者なのに非難されるという苦しい状態に追い込まれます。原因となった工場や行政はどうしても自己防衛的になりますし、周囲も自分のことではないので無関心でいることが多いのです。それが最近でも起こったことに私たちは再び反省しなければなりません。
第二に、それが「まさか『よかれ』と思って行っている『不燃ごみ中間処理施設』や中継所のわきの『公園の植栽』から出ている毒物」とは思いもよらなかったのです。このような場合にいつもいわれるように、「まさか、不燃ごみの中間処理施設でこんなに毒性の高い硫化水素が発生するとは思わなかった」というのが今回も見られました。人間は学習する動物ではないのでしょうか。
もう一つ、和歌山の金属屑のリサイクル品からラジウム、ベリリウム、セシウムなどの放射性元素(ベリリウムやセシウムは安定な元素がほとんど。原子炉からのものには放射性元素が含まれる)が検出されました。気づかなければ人体に影響があったと新聞が報じています。この場合は多分、海外からのスクラップの中に入っていたと推定され、「〇〇国の管理体制が不十分であった」と解説がついています。
さらに最近東京湾のスズキや、琵琶湖のウグイなどとPCBの蓄積が問題になっています。規制が進んだ九〇年代でもこれらの魚介類に含まれるPCBの含有量が減少しないという問題点が指摘されています。現在では単純な環境問題として認識されていますが、このようなPCBはリサイクル社会では生物に蓄積し、堆肥に蓄積していきます。
杉並病の原因が解明され、正式な調査報告が公表されたのは二〇〇〇年四月一七日、スクラップ

のステンレスに放射性物質が混入しているのを新聞が報じたのが二〇〇〇年五月一八日、PCB汚染の報逍が二〇〇〇年六月三日と本著を執筆しているわずか一、二カ月の間にも「考えられないリサイクル品への毒物の混入やゴミからの有毒物の発生」がみられています。まだ日本ではほとんどの物質がリサイクルされていません。二〇〇〇年四月に容器包装リサイクル法が完全施行されたばかりなのに、もうたて続けに毒物混入や毒物発生が報じられているのです。そして、この二つの事件のいずれもが、単に毒物が発生したり 、混入したりしただけであり 、「リサイクルによる毒物蓄積」までは至っていません。しかし、このまま法律が施行され、本格的なリサイクルが始まると、このような毒物がリサイクル品の中に蓄積し、毒物レベルが上昇すると考えられます。
『リサイクル汚染列島』(青春出版社)武田邦彦著より
