報道の裏を読む — 展望力をつけるために 武田邦彦「ホントの話」第221回を読む
この回が重いのは、先生ご自身が当事者として語っておられるからです。テレビ局のスタジオで手渡された、一行一句そのとおりに読めというカンペ。その場に立った人の証言として語られます。
先生の根拠は二つでした。当時ハワイ大学とオーストラリアの大学が測定していた値は、沈んでいるとも浮いているとも読めるものだった。そしてツバル政府が毎年国連に報告している国土面積は、みなが沈む沈むと言っている間に増えていた。
さらに最近調べ直したところ、太平洋とインド洋にある同じような低い島は約千。そのうち面積が増えているのが約八百、減っているのが約二百だったといいます。「本当に海水温が上がっているのかな、と思ったりもしています」。
当時、あるキー局が芸能人やカメラマンを連れてツバルへ取材団を組みました。ところが帰国して放送の段になり、カメラマンが「ツバルは沈んでいなかった」と言い出した。これだけ金をかけた取材をどうしても放送したい局と、事実と違うと言うカメラマンで揉めた。
そこで先生のところに電話が来ます。「武田先生が解説してくれるならフィルムを出す、とカメラマンが言っている」。
スタジオへ行くと、自由に発言はできないと言われ、カンペが用意されていました。一行一句そのとおりに、と。読んでみると、当時の「沈む、沈む」よりは真実に近く、沈むか沈まないか分からない程度の表現だった。それなら現状よりましだと考えて先生は承諾し、局員が並んで掲げる紙を、読んでいないように読んだ。「あのカメラマンを救う会くらいやりたいんだけどね」——先生はそう言われました。
なぜそこまで慎重だったのか。「ツバルが沈むか沈まないかは地球の問題であって、武田の意見なんかない。これは科学だから」。
もう一つ、大阪の大学の文系の先生から電話があったそうです。ツバル政府には、先進国のCO2で海面が上がり被害を受けているという筋道で補助金を得たい事情がある、だから理科系の見地からきちんと言ってください、と。
面積については、先生の指摘は研究に裏づけられています。ニュージーランド・オークランド大学の研究チームが一九七一年から二〇一四年までの衛星画像などを解析した結果(二〇一八年、Nature Communications誌)、ツバルでは世界平均のおよそ二倍のペースで海面が上昇しているにもかかわらず、国土の総面積は二・九パーセント(約七三・五ヘクタール)増えており、百一の島・環礁のうち約四分の三で面積が拡大していました。理由は隆起ではなく、波が運ぶ砂の堆積です。先生の「千のうち八百が増え、二百が減っている」という数字も、同種の広域調査とおおむね一致します。
ただし同じ研究チームは、海面上昇が低海抜の島国にとって重大な脅威であることに変わりはなく、対処の仕方を考え直すべきだと述べています。またツバルの海岸侵食や地下水の塩水化には、人口の集中、生活排水によるサンゴの衰退、地下水の汲み上げといった地域的な要因が大きいことも指摘されています。面積が増えていることと、島が安泰であることは、分けて受け取るのがよさそうです。
そのうえで別のデータを示されます。北極の氷は温暖化でずっと減ってきたが、十年ほど前から最も少ない状態のまま、それ以上減らなくなった。夏の最も少ない時期でも半分ほどは残っている。なぜ減らなくなったのかは分からない。「なぜ分からないかというと、研究者はみな温暖化の側から金をもらっているから」。
そして南極。南極は氷点下十五度ほどの世界だから、二度上がったところで氷はできる。むしろ周りの海水温が高ければ蒸発量が増え、雪として降り積もる。冷蔵庫に霜がつくのと同じ理屈だ、と。
「温暖化しているというデータもあります。ないとは言いません、僕は学者だから。しかし温暖化が止まっているというデータも実はある」——先生の言い方は、ここでは慎重です。
海氷のデータは、先生の観察が当たっている部分と食い違う部分の両方を含んでいます。
北極の夏。年最小値は二〇一二年に記録された値がいまも最小で、以後それを下回った年はありません。気象庁の診断でも、二〇二五年の年最小値は一九七九年以降で十一番目の小ささでした。「一番低いところで下げ止まっている」という先生の見立ては、夏の最小値についてはデータに現れています。
北極の冬。こちらは逆です。年最大値は二〇二五年三月、二〇二六年三月と二年続けて衛星観測史上最小を更新しました(二〇二六年は三月十三日の一三七六万平方キロメートル)。長期の減少傾向そのものは続いており、気象庁は年最小値の減少量を一年あたり約八・二万平方キロメートル、北海道の面積に匹敵すると診断しています。
南極。かつて気象庁は「年最大値に長期的な増加傾向がみられる」と診断しており、その時期に限れば先生の説明と符合します。しかし二〇一六年頃から急減し、二〇二二年二月に観測史上最小を更新、二〇二五年二月には南北を合わせた全球の海氷面積が観測史上最小となりました。現在の気象庁の診断は「南極域の海氷域面積には長期的な変化傾向がみられません」です。南極の氷が増え続けているという図は、少なくとも近年のデータとは合いません。
なお報道元について。海面水温を発表したクライメート・セントラルは、米国の非営利の研究・報道団体で、気候科学者が在籍し査読論文も出しています。ただし気候変動の啓発を掲げる団体であり、気象機関とは位置づけが異なります。発表元の性格を確かめてから読むべきだという先生の姿勢そのものは、どちらの方向にも使えるものです。
一つは、新宿・牛込柳町の鉛中毒事件。住民が鉛中毒になったと大きく報じられたが、先生が病人歴を調べたところほとんど該当がなく、「嘘ではないか」という本を書かれた。一、二年後にもう一度確かめようとしたら、参照した資料がもう見られなくなっていたといいます。「全部コピーを取っておけばよかった」。
一つは、国の赤字。千兆円の赤字だとNHKと財務省が言うが、それは日本政府が日本国民から借りている額であって、対外資産まで含めた日本国は黒字だ、と。「借りるために発行しているのが国債なのだから、国債を数えて赤字だと言うなら、社債を出した会社はみな赤字になる」。
そして浜岡原発。中部電力が地震の揺れを過小評価した疑いで外部弁護士による調査報告書を公表し、経営層が審査スケジュールの遅れを叱責したことが担当者を不適切な行為へ駆り立てた、と認定しました。先生はこれを「中部電力の大変立派な行為」と評価されます。頭を下げてやり直すと言ったのだから、と。
むしろ先生の怒りは、原子力の側がたどった歴史に向かいます。反対派が無理な反対をするので、こちら側も嘘をつき出した。一度嘘をつくと、嘘の嘘を重ねるしかなくなる。福島の事故のとき、風向きの発信が止まり、住民が放射性物質の来る方向へ逃げてしまった。先生はドイツとイギリスの気象機関のデータにアクセスし、ご自身のブログに書いた。一日に二百万、三百万の閲覧があったのは、そこにしか情報がなかったからだ、と。
「原子力をやってきたからこそ、原子力で嘘をついてはいけない。技術は事実で暴かれますから」。
ツバルが沈もうが沈むまいが、それは地球の問題であって学者の意見ではない。温暖化しているデータもある、止まっているデータもある。どちらであってほしいという願いを持った瞬間に、それは科学ではなくなる。
だとすれば、読む側にできることも一つです。発表したのは誰か。その団体は何で食べているのか。元のデータはどこにあるのか。先生が三十年かけてやってこられたのは、結局それだけのことでした。
先生はまず、東京大空襲と広島・長崎に触れられます。戦争は国家の権利であって犯罪ではない。ただし国際法は、降伏した兵士を殺さないこと、一般市民を狙わないことを定めている。その意味で、無警告の都市爆撃や原爆は国際法上きわめて問題がある、と。それでも日本人は賠償も犯罪も言わなかった。先生はそこを日本民族の偉さだと言われます。
ある物理学会の昼食でアメリカの若い研究者がベトナム戦争の話をしていたので、「僕は日本人で、爆弾を落とされて大きな被害を受けた。昼飯の時にその話はしないでくれ」と言ったところ、その後三十分、誰も口をきかなかった。あのとき、口には出さないがアメリカ人は深く反省しているのだと分かった、と。沖縄が返還されたのも、軍が取ったものを平和裡に返すという歴史上まれなことが起きたのも、そこに理由があるのではないか——これが先生の見立てです。
その日本にあって、沖縄だけが八十年前を繰り返し語り続けた。普天間の防衛には京都から守備隊五千名が出て全滅しており、本土が何もしなかったわけではない。それを語らずにきたことが、沖縄の不幸の始まりだったのではないか、と先生は言われます。「過去のことに恨みがある時、それを口にすれば悪い方へ行く」。
選挙結果を確認しておきます。九月十三日投開票の沖縄県知事選では、新人で元那覇市副市長の古謝玄太氏(四二)が四二万三一二四票を獲得して初当選しました。自民・維新・国民・参政・保守の各党と公明党県本部の推薦を受けています。現職の玉城デニー氏(六六)は二七万六〇六〇票で、十四万票以上の差がつきました。これまでの最多得票は二〇一八年の玉城氏の三九万六六三二票で、今回はそれを上回る過去最多得票です。投票率は六一・五七パーセントで、前回を三・六五ポイント上回りました。古謝氏は復帰後生まれで初、県政史上最年少の知事となり、自民側の県政奪還は十二年ぶりです。
なお先生は沖縄の戦後を主に思想的な要因で説明されますが、報道では、辺野古移設をめぐる法廷闘争の終結と工事の進捗によって争点が経済振興や生活支援へ移ったことが大きかったとする見方も示されています。要因の見立ては分かれます。
環境を語って出てくる人は、みな金持ちで、ゆっくりしていて、上品で、そして太り気味だ、と。三十二歳から四十歳まで、環境問題が出てきた時期に先生ご自身が悩まれたそうです。足るを知る、贅沢をしないと言いながら、給料は上がる。うまいものを食べれば太る。
「いただきます、とは命をいただきますという意味です」。人間は肉が食べたくても自分の腕の肉は食べない。豚を食べられるのは、豚が弱いからだ。二千円の夕食は千円の夕食より、倍の命を使っている。だから環境を語るなら自分の年収を公表すべきだ、日本人の平均は四百五十万円だ、というのが先生の注文でした。
骨格は生物学です。人類と類人猿は基本的に同じ仲間でありながら、片方だけがよい生活をしている。差は脳の容積であり、情報処理能力である。ライオンがどれだけ牙を持ち運動神経に優れていても、檻の中で小学生に見られている。情報処理能力が高く情報量の多い側が、低い側を絶滅させる——歴史的にそれしかない、と。
「もし起こっても二百年後だろうと思っていたが、最近の情報を見ると十年後という感じです」。いま五歳の子が十五歳になったら、と先生は言われました。対策として挙げられたのは、日本が半導体をAI用に供給しないところから始めて、せめて速度を遅らせることです。
ニュースの事実関係です。ジェイコブ・コクソン氏(二七)は二〇二六年九月八日、Anthropicを退職したことをX上で公表しました。ケンブリッジ大学で数学を修めたのち、二〇二三年から二〇二六年七月までOpenAIで、その後Anthropicで、いずれもモデルの事前学習の研究に携わっていました。「どちらの企業も責任ある行動を取っていない」「自己改良型の超知能へ突き進み、我々の命を賭けて競争している」と批判しています。
同じ時期、Anthropicの現職のアライメント研究者エヴァン・ヒュビンガー氏が、今後十年以内にAIが人類の絶滅を引き起こす確率を個人的に十パーセント超と見積もっていると表明しました。ただし両者とも、現在のモデルが人間に反乱するリスクは低いとしており、問題にしているのは今後の開発競争の速度です。
先生の解説は構図の話です。一九五五年体制は右と左の対決だった。ところが一九九〇年にソ連が崩壊して、左が世界から消えた。政党だけが残り、既存の保守が福祉や年金を担って左へ寄っていった。その空いたところに入ってきたものを、新聞は「極右」と呼んでいる。左がないので、右を言い表す言葉が足りないのだ、と。日本の立憲民主党が中国にどういう政策を持っているのか分からないので、報道は「親中派」としか書けないのも同じことだ、と先生は続けられます。
一点だけ補っておきます。先生は「ナチスは左翼だ、労働者党という名前で伸びたのだから」と言われました。国民社会主義ドイツ労働者党が労働者向けの経済政策を掲げたのは事実ですが、政権掌握後に共産党と社会民主党を真っ先に弾圧し、人種主義を中核に据えたことから、政治学では一般に極右に分類されます。この分類をめぐる議論が存在することは確かですが、左翼と位置づけるのは通説ではありません。
先生の指摘は一点です。国民が選んだ知事に合わせて予算を組むのが民主主義ではないのか。選挙の結果を政策に使うなと言うのなら、そもそも選挙をしなくてよいことになる。共産党という名を掲げる以上、自分たちの考える正しさは何なのか、選挙はあるのかないのか、はっきりさせてほしい——というのが先生の長年の注文でした。
そのうえで先生が残された問いは、別のところにあります。噂は空気中から湧くものではない。誰かが言い出したはずだ、と。
先生は「ふやふや遊ぶような若者ではなく、望遠鏡くらい覗く若者が出てくるのは嬉しい」と言われ、こう続けられました。「こういうニュースだけ出してくださいよ。嘘ばっかり出さないで」。
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