武田邦彦「ホントの話」第220回を読む
そして先生は、悲観では終わられません。「身は守れるんです、皆さん」——分かっていることを使えば、命は守れる。この回は、その具体を語られた回でした。
武田先生は、まさにここに噛みつかれます。地震の巣ということは、そこで地震がしょっちゅう起きているということです。地盤は分かっている。歪みの分布も図になっている。震度三以上なら毎年何十回と起きている。——それなのに、なぜこの日の午前二時に来ることが分からなかったのですか、と。「地震の巣で起きた」という説明は、予知できなかったことの説明にはなっていない。これが先生の指摘です。
先生ご自身は、揺れの形から震源を言い当てられたといいます。眠っていて初期微動の終わりを感じ、横揺れだから近い、遠方の大地震なら縦波で緩く来るはずだ、だから関東、茨城だ、と。以前、生放送の最中にも同じことを言い当てられたそうです。「板に力がかかったとき、板がどう割れるか」という、物理の基礎の基礎だと先生は言われます。
どこにどんな亀裂が入っているかが分からないのだから、いつ割れるかは分からない。だから「千年以内に一回起こるかもしれない」という確率までは言えても、「いつ来るか」は言えません。そして地震で本当に大切なのは、確率ではなく、いつ来るかのほうです。「今後十年のうちに一回来ます」と言われたところで、人はその家で毎晩寝なければならない。それでは意味がない。
先生は、地震予知を厳しく批判してきた東京大学のゲラー氏に触れ、あれは学問ではなく「打ち出の小槌」だという趣旨の言葉を紹介されました。国民を守れないのに予算だけは取るのか、という怒りです。
地震の直前予知については、政府自身がすでに方針を転換しています。大規模地震対策特別措置法は、東海地震の直前予知と「警戒宣言」を前提に組み立てられていましたが、平成二十九年、中央防災会議の作業部会が「確度の高い予測は現在の科学的知見からは困難」と結論づけ、南海トラフについては予知を前提とした体制から「南海トラフ地震臨時情報」の枠組みへ切り替えられました。気象庁も、現在の科学では地震の予知はできないという説明を公式に行っています。「いつ来るかは分からない」という先生の指摘は、この点では公式見解と食い違いません。
揺れの大きさは、その土地に溜まった歪みの量で決まる。だから自分の住んでいる場所の最大震度は、かなり正確に分かります。震度いくつでドアが開かなくなるか、ガラスが割れるか、冷蔵庫が横にずれるか、二階が潰れるか——それも詳しく整理されています。
先生ご自身、名古屋のお宅は想定震度に合わせて二十万円ほどで改修し、どの戸から逃げるかまで決めておられたそうです。同じ市内でも木曽川の上流側と下流側では想定が大きく違う。自宅の建築年月が分かれば、どの建築基準法の下で建てられたかも分かる。「必ず身は守れるんです」——この回でいちばん先生が繰り返された言葉でした。
揺れやすさは、すでに公開されています。防災科学技術研究所の「J-SHIS 地震ハザードステーション」では、住所単位で表層地盤の揺れやすさと想定される震度を確認できます。国土交通省の「重ねるハザードマップ」では、浸水・土砂災害と併せて見ることができ、各自治体の防災マップも同様です。先生の「自分の家の最大震度は調べられる」という指摘は、そのまま今日から実行できます。
当時、地方都市はおおむね二百〜二百五十ミリの雨を想定して防御しており、名古屋は三百ミリで守っていた。そこに三百〜五百ミリが降り、鶴舞のあたりが浸水した。その後、名古屋大学の土木の研究者が旗を振って改修が進み、いまはおおむね五百ミリ規模を見て設計されている。それ以後、東海豪雨のような被害は起きていない。——ここが先生の言われる「対策は効く」という実例です。
先生は川の構造にも触れられました。漁業への配慮などで浚渫が進まず川底が上がると、いわゆる天井川になる。そうなると雨水は自然には流れず、ポンプで汲み上げるしかない。だから、どれだけの量をポンプで上げられるかを先に計算しておかねばならない、と。
そして——大河川の一部を除けば、河川の管理は都道府県の仕事です。千葉の被害のあと、知事が平常の顔でテレビに出てきたことに、先生は驚かれたと言われました。
台風が来ても何ヘクトパスカルか言わない。どこに何ミリ降るか言わない。レーダー画像は出すのに、数字を出さない。そして「命を守る行動をとってください」とだけ繰り返す。——では、我々国民はどうやって命を守ればよいのか。
命を守るのは堤防であり、二時間前・三時間前に「どの警報が出たらどこへ逃げるか」という具体です。本当は、逃げなくて済むのが一番いい。千葉の件も、水防という概念がきちんとあれば防げた被害だった、というのが先生の見立てでした。いまはスマホがあるのだから、どこが危ないか、車で出るな、と県から具体的に出せるはずだ、と。
「地球温暖化の影響」という説明について。気象庁の資料でも、温暖化にともなって大気中の水蒸気量が増え、短時間強雨の発生回数が長期的に増加傾向にあることは示されています。一方で、個々の豪雨事例を温暖化に帰属させるには「イベント・アトリビューション」と呼ばれる個別の解析が必要で、発生直後に断定できる性質のものではありません。先生が問題にされているのは、「温暖化のせい」で説明を終えて具体的な数字も対策も語らない姿勢であって、温暖化そのものの存在ではない——ここは読み違えないほうがよいところです。
地震はいつ来るか分からない。しかし来たときにどれだけ揺れるかは分かる。豪雨がいつ降るかは読み切れない。しかし何ミリまで守れる街かは分かっている。分かっている側を使って備えることを、科学は本来の仕事にすべきだ——第220回を貫いていたのは、この一点でした。
制裁の事実関係を確認しておきます。令和八年八月十八日、ルビオ米国務長官は、ICCの赤根智子所長とアブドゥライェ・セエ上級法廷弁護士の二名を新たに制裁対象に指定したと発表しました。理由は、ICCの管轄権に同意していない国の政府関係者の訴追などに関与したこととされています。高市早苗首相は十九日「大変残念に思っている」と述べ、外務報道官談話でICCへの支持継続を表明しました。なお、先生が「いまどこにいるのか分からない」と言われたフィリピンのドゥテルテ元大統領は、二〇二五年三月にICCへ引き渡され、ハーグの拘置施設に勾留されています。
先生が挙げられた事例は、福井地裁の樋口英明裁判長のことと思われます。平成二十六年に大飯原発の運転差し止め判決、平成二十七年四月十四日に高浜三・四号機の再稼働差し止め仮処分決定を出しました。ただし名古屋家裁への異動は同年四月一日付で、決定より前に発令されており、継続審理のため異動後に決定を出した形です。また同氏は当時、定年退官が近い時期でもありました。この異動を判断への報復と見るかどうかは評価が分かれます。先生の記憶にある「高等裁判所」「翌月に左遷」という点は、正確には「地方裁判所」「異動が先」です。
「私が生まれた頃の平均寿命は五十前後で、定年は五十五歳でした」。働いている間に亡くなり、そのあとに定年が来るのが本来の順序で、定年の後に長い人生があるという状態は、一九六〇年頃に始まったごく新しい現象だ、と。英米にはそもそも定年がなく、独仏でも基本は七十五歳。日本の六十五歳はむしろ早い、という指摘です。
保育にかかる費用は、年齢が低いほど大きくなります。国の資料では〇歳児一人あたりの保育費用は月二十万円を超え、うち公費負担が月十七万円程度(平成二十九年度)。自治体の試算では〇歳児一人あたり月三十万円前後という数字も公表されており、先生が紹介された「月三十万円」は実態とかけ離れた数字ではありません。ただし在宅育児への現金給付は、就労の継続、女性の生涯所得、孤立した育児のリスクなどと絡み、諸外国でも賛否の分かれる論点であることは付け加えておきます。
生態ピラミッドの中間にいる草食動物は、自分で個体数を制御できません。増えれば草を食べ尽くし、根まで食べて、やがて自ら餓死する。一方、頂点の肉食動物は、その土地に降り注ぐ太陽の量から決まる植物量・草食動物量を本能的に見積もり、自分たちの数をそこに合わせる。——「食べすぎて太り、金をかけてダイエットに行く」のは、頂点に立つ者の作法ではない。いただきますとは命をいただくことだ、という話に着地しました。
先生が触れられた島の事例は、米ミシガン州のアイルロイヤル島のことと思われます。長期研究で有名な島ですが、正確には獲物はヘラジカで、オオカミは一九四〇年代に凍結したスペリオル湖の氷の橋を渡って渡来しました。そして実際の記録は「一定数で釣り合う」よりも大きく振動するもので、オオカミは二〇一六年には二頭まで激減し、二〇一八年から再導入が行われています。頂点捕食者が草食動物の増えすぎを抑えるという骨格は生態学の共通理解ですが、きれいな平衡が保たれるという単純な図ではありません。なお長野県の鹿は十年前の約十五万頭から、令和六年には二十二万頭を超えたとされます。
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